鋼鉄
□宵の城
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「魯ー粛チャン」
「うっっわぁあ…!!」
ガタガタ、ガタンッ
しかしそうして部屋に入ったものの、中にいるその人は何やら机に向かっていて全くこちらに気付いていない。仕方なしに声を掛ければ、大袈裟、というに相応しいリアクションが返ってきて思わず声を掛けたこちらがビックリしてしまった。
「な、なな…なんですかいきなり!ビックリさせないで下さい趙雲殿…っ」
そうして椅子から転げ落ちるという挙動不審ぶりを発揮して振り返った魯粛は青い顔をしていた。喉まで出掛かっていた『それはこちらの台詞だ』という言葉が瞬時に引っ込む。
――おかしい
魯粛はこう見えて、普段決して他人に己の内を見せない男である。尤もそうした壁を突き破り、掻き乱してやるのが趙雲の魯粛に対する楽しみなのだが。
「…ふーん?」
探るように視線を向ければそれに気付いたのか、魯粛がハッとしたようにいつもの調子を取り戻して言った。
「何か、ご用ですか?」
取り澄ました表情からはもう先ほどのような狼狽は見られない。見事なものだと感心しながらも、しかし立ち上がったその時、卓に広げられた『それ』が後ろ手に卓の端へと避けられたのを趙雲は見逃さなかった。
ニヤリと唇の端が吊り上がった。彼の防壁が案外容易く崩れることを、趙雲は今迄の経験から知っている。
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