鋼鉄

□拍手ログと小咄
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そもそも、全ての事の始まりは一時間前に溯る――


彼らの日常会話が聞こえたのは諜報ゆえの聴覚か、はたまた深層心理の願望が成せる技か。

「ちょっ…、何してんだよアニキ!」

「え?!す、すまない。よく分からなくて…。間違ってるかな?」

同盟を結ぶ為呉に滞在していた趙雲は興味本意で出掛けた先で思わぬ情報と巡り合っていた。

(何やってるんだ…)

大声で話す二人の会話は薄い壁を挟んで外にいる趙雲にも文字通り筒抜けである。尤もこんな情報を掴んでも蜀の為、否、趙雲が心酔するあの人の為には1ミリの得にも成りはしない。分かってはいるのだが、気付けば趙雲はその身を暗い回廊の影に身を潜ませていた。そして、己が自然とそうしたことに趙雲自身が酷く驚き、戸惑っていたのだ。

「火は弱くしなきゃダメだって言っただろ?こんなに焦げちまってるじゃねーか!」

そうして忍んで数秒と経たずに趙雲は辺りに何やら異臭が漂っていることに気がついた。

(料理、か…?)

聞こえてくる会話からして明白であるのに疑問符が浮かんだのはその臭いが余りに異常であったからだ。

(人の食べ物じゃないだろう…コレ)

焦がした、というからには焦臭い匂いがしてよさそうなものである。なのに、何やら酸っぱいような臭いがしているのはどういう訳か。


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