鋼鉄

□拍手ログと小咄
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覆面の上から軽く鼻を抑えて部屋の中を覗き込む。すると案の上、予想した通りの二人組――陸遜と凌統が台所と思われるところで何やら鍋の中身をかき混ぜていた。

「あ、ほらほらもっと底の方からかき混ぜなきゃ…。うんそうそう。しっかし、あれだな。アニキは呉に来る前は旅してたんだろ?よくこの腕前でやって来れたなぁ〜」

「うん…。まぁ、旅と言ってもほとんど宿に泊まりながらだったから」

「でも野宿の時だってあったんだろ?そういう時はどうしてたんだよ?」

一体何を作っているのかは不明だが、何やら話が面白い方に進み始めた、と趙雲は思った。
陸遜が旅をしていた時の話となれば孔明のことも出て来るだろう。面と向かって陸遜の口から自分の知らない孔明の話を聞くというのは死ぬ程嫌なことだったが、盗み聞きならば支障ないのだ。

趙雲は嬉々として聞き耳を立てた。

しかし、

「その…それは、………我が師が」

その言葉は些か趙雲にとって想定外であった。






(我が師、が…?)

孔明がなんだというのだ。
陸遜の恥じ入ったような声を聞きながら数秒考えて、その結論に至った時、趙雲の時がぴしりと音を立てて止まった。

野宿→陸遜は料理が作れない→つまり、

(まさか、孔明の…)



手料理。



事実を確認した次の瞬間、趙雲の姿は既にそこにはなかったという。


ちなみに二人が作っていたのが害虫駆除の為の餌だったとは、最後まで話を聞かなかった趙雲は知る由もない。


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