鋼鉄
□甘いものには毒がある
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「ぎ、義理ですからね…!義理ですからね!?」
「知ってるよ」
本命は孔明様だろ、と言おうとしてやめる。
そんな予防線を張るまでもなく、真っ赤になった魯粛の顔を見れば、要りもしない建て前をいつものように並べ立ててやるのは勿体ないような気がした。
代わりにニヤリと唇の端を持ち上げて笑ってみせれば(もっとも、口元は覆面に覆われていて見えないのだけれど)、魯粛は言葉を詰まらせて悔しそうに俯く。その姿になんとも加虐心をそそられて、思わず口から笑みが零れた。
もっと苛めたい
「ねえ、食べさせてよ」
「え…!」
本能の赴くままにそれを口にすれば、顔を上げた魯粛はこちらを見たまま、目を見開いて固まった。その隙に、どういう意味かと質問する暇を与えないように、半ば無理やり壁際へと追い詰めると、今度はその瞳が大きく動揺に揺れる。面白い。
「出来ないの?いつもそれ以上のことしてるだろ」
「は?え、チョコの話…?」
「……なんだと思ったの」
今さっき貰ったばかりのそれを魯粛の手に押しやると、魯粛は呆気に取られたようにぽかんと口を開ける。しかしその安堵も一瞬のことで、いざ覆面を外して見せると、魯粛の表情はぴしりと、一気に緊張で凍り付いた。
「別にホントにアンタを頂いちゃっても構わないんだけど」
耳元で囁き、そっと頬に手を伸ばせば、魯粛の身体がビクリと大袈裟に震える。そのままゆっくりと輪郭をなぞるように手を滑らせ、指先で唇をなぞった。
「え…、く…口で、ですか…?」
平静を保とうと努力しているようだが、指先に触れる吐息は熱く、微かに震えていた。魯粛の碧い瞳が揺れるのを見届けてから、もう一度
「…当たり前だろ」
答えて顎に手を掛ける。
わざとぐっとキスする時のように乱暴に顎を持ち上げれば、魯粛はついに観念したというようにぎゅ、と目を閉じた。
その顔をまじまじと見つめる。恐怖か緊張か、真っ赤に染まった頬に、微かに震える唇。何かに耐えるかのようにキツく閉じられた瞼――、それはまるで狼に食べられる前の小羊のようだった。
「っ、ふ…、」
観念したようにビクビクと縮こまって怯えるその姿は幼い子供のような独占欲を満たすには充分すぎる。
喉の奥から漏れた笑いを納めることが出来ず、思わず肩を震わせれば、直ぐにからかわれたと気付いたのだろう。魯粛がぱっと、瞼を開けた。
(趙雲…!!)
(だって、アンタ…最高……)
(からかわないでください…!)
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甘々趙魯。
このあと趙雲は不意打ちチューを投下すればいいと思います。