鋼鉄

□お酒の利用は計画的に
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「ッ、」

スルリと輪郭をなぞるように触れた手が顎に掛かって、くっと無理矢理顔を上げさせられる。真っ赤になった顔を見られるという羞恥に、反射的に顔を逸らそうとした努力は無駄に終わった。

「や、あの…別に誰かに言われた、わけ…では、」

諸葛瑾の馬鹿!どうしてあんな魅力的な餌で私を釣ったりしたんですか…!
此処にいない人物に心の中だけで思い切り悪態を吐いてみるが、この状況を打開出来るような策は一つも浮かばない。そもそも酔いに任せた勢いで字を口に出来た時点で奇跡だったのだ。そのあとの状況を打破するだけのスペックなど自分に兼ね備えられてはいない。

「ふうん、じゃあ自分から呼びたいって思ったんだ?僕のこと、子龍って?」

顔を見なくても趙雲が笑っているのが分かった。顔が熱い。顔から火が出そうとは正にこのことだ。やっぱりこの男に挑もうと思ったこと自体がそもそも間違いだったんですよ…!と心の内で一人絶叫するが、もうどうにもならない。

「へー、ふうん、そう」
「い、いえ…、その」

趙雲の声は既に完全に面白がっている。でも、それに構っていられないほど全身が、触れている指先が熱い。目を逸らし続けていることにも耐えられなくなって、ぎゅっと目を瞑れば、その瞬間、趙雲の指先が唇をなぞった。

「ねえ、こっち見なよ」
「、」

駄目だ、負けた。
完全にバレている。

いや、そもそも自分がこの男に勝てたことなんて一度でもあっただろうか。

「見ないなら、このまま口付けるけど?」
「え…!いや、それは」

反射的にぱっと目を開けた瞬間、視界を塞がれた。

(見ても口付けるんじゃないですか嘘つき…!)

口を開くことが出来たなら間違いなく悪態を吐いていただろうが、それも適わない。逃げようとした腰を引き寄せられて、ビクリと身体が震える。

「っ、ふ…」

何度も唇を啄まれて、次第に息苦しくなる。息を吸おうと唇を開けばその瞬間、舌が中に差し込まれた。
逃げようと舌を引っ込めようとすれば絡めとられて、思わず肩を押し返せば、吸い上げられる。

「んン…ッ」

粘膜の擦れ合う感触にじわじわ身体が熱くなって。このままでは拙いと、必死で身体を捻って逃れようとするが力で趙雲に適う筈もない。ようやく唇が開放される頃には身体は熱に浮かされて、目がしっかり潤んでしまっていた。

「趙、雲…っ」

首筋に顔を埋められて慌てて肩を押し返せば、しかしその瞬間、カリ、と耳を噛まれて全身が跳ねる。

「や、」
「何、僕のこと字で呼びたいんじゃなかったの?…子敬」

完全に、不意打ちだった。
おかげで耳元で吹き込むようにして囁かれたそれが自分の字だと、理解するのが一瞬遅れた。かああ…と今までにないくらい全身が熱くなる。まさか不意打ちで字を呼ばれるのがこんなに心臓に悪いだなんて、一体誰が思うだろうか。

しかしそこでふと、違和感に気付く。
先程まで首筋に顔を埋めていた筈の趙雲が頭上でクック、と笑いを噛み殺していたのだ。ハッと一気に我に返った。

(か、からかわれた…?!)

最早真っ赤になっているだろう顔など気にしていられなかった。思わずそのまま顔を上げれば、魯粛の確信を裏付けるかのように、呆気ないほど簡単に趙雲の腕がスルリと離れる。

「趙雲…ッ!」
「だって、たまには呼んでみてもいいんだろ?魯粛チャン?」

キッ、と睨み付けた先にあった趙雲の顔は憎たらしいほどに満足げだった。







++++++++++

で、何も言い返せない魯粛という。いいい意地が悪いですよ…!と心の中で絶叫しながらこのあと結局趙雲においしく頂かれればいいんじゃないですかね(言ってろ)
ていうか危うく裏行きになるところでした。危ない危ない…え、アウト?

字呼びされて互いにめっちゃ動揺する趙魯とか可愛いんじゃないかと思い立って出来たssでした。何が一番書きたかったかって、冒頭で噴き出す趙雲と物で釣られる魯粛です。スミマセン←
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