白い羽根を背中に

□†一章†
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†初逢†

俺はあいつに 逢った時から

あいつが――ちひろが、

好きなんだ――…。





徹也がちひろに逢ったのは、初夏の事だった。
徹也は“孤児”だ。
両親を相次いで事故で亡くし、剣長が長をしていた孤児院に引き取られた。
その頃、徹也は何故親が居なくなったのか分からなくて、心が消えていた。
“死”という意味が分からない程、幼かった。
どうしてお母さんとお父さんは消えたの?
僕がいけなかったの?
…分からない。
誰も教えてくれない。
僕は一人になった。
孤児院には他の人も沢山居るけど、僕は皆みたいに明るくなんかなれない。
誰とも関わりたくない…。
そんな折、少女がやってきた。
月に一人は誰かが入居していた孤児院に新しく人が来たところで、徹也の心は揺るぐ事はない。…始めは、そう思っていた。
少女は名を「ちひろ」と云った。
孤児院に来たというのに明るく、周囲を和ませていた。彼女自身もそれが楽しいらしく、徹也が見た限り、ちひろはいつも笑っていた。
――新月の夜までは。

徹也はその日も睡眠をとる事が出来ず、ベッドを抜け出していた。いつものように庭に出、朝まで月を眺めるつもりで。
だが、それは断念せざるを得なかった。
庭に先客が居たのだ。
今日は新月。月からの灯りはなく、他に灯りといえば院内から漏れる電気くらいだが、庭に続く階段に腰掛ける『誰か』を判別するには足りない。
(誰だろう…)
徹也は恐る恐る階下を目指し歩を進める。
不意に、『誰か』が横を向いた。
それは、ちひろだった。
彼女を見て、徹也は足を止めた。
彼女が、泣いていたから。
ちひろは背後で固まっている徹也に気付き、慌てて指で涙を拭った。
ちひろは平静を装って、
「…どうしたの、徹也君?」
徹也はいきなり声を掛けられ動揺し、応える事が出来ず、踵を返して部屋に戻った。
「…あっ、徹也君…!」



徹也は皆を起こさないよう、そっと後ろ手で扉を閉めた。部屋に入った瞬間、上がっていた呼吸は収まり始める。
いつも笑顔のちひろさんが泣いていた…?
どうして…?
布団を頭からかぶりひたすら考えても、彼女が泣いていた理由は徹也には分からなかった。
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