甘い空気な文!

□ジェン
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(文化祭編その3)








 待ちに待った文化祭当日。学校は活気ある賑わいを見せた。射的広場や肝だめし、バザーやおもちゃすくい、やきそば屋にたこ焼き屋、とさまざまな出し物で賑やかだ。同じく竜児のクラスも賑やかである。出し物は喫茶店で女子はメイド服を着て、男子はバーテンダーの格好だ。喫茶店はなかなかの繁盛っぷりで、竜児たちは休憩する暇もなく忙しかった。それでもクラスの皆は楽しそうだ。ただ竜児だけは溜息を吐いていた。

「どうした、高嶺?」

そんな様子の竜児に声をかけてくれたのは担任の志那虎だった。心配していてくれている。竜児は眉毛を下げらながら小さく笑った。

「やっぱり女の子が男の子の格好するのって変だよね」

その微かな声は賑やかな騒ぎ声で隠れてしまった。志那虎にその声は聞こえなかった。もう一度志那虎は聞こうとしたが、新たな歓声に気を取られてしまった。

「おらおらー!石子ちゃんのおとおりだぜぇ!」

石松の登場にクラスは一気に笑いで溢れかえった。石松はメイド服を着ている。これは女子生徒らがメイド服を手伝ってくれたのをお礼に、と渡してくれたものだ。ただお礼は口実であって面白見たさだ。最初は文句を言っていた石松だが案外楽しんでいる。竜児もそんな石松にお腹を抱えて笑う。志那虎はそんな様子の竜児を見て一安心した。

「あはは!石松似合ってるね」

「だろ?」

竜児と志那虎のところに石松はゆくと歯を見せ笑った。すると。石松が竜児の足の下から頭まで視線を移す。

「竜児もメイド服着れば…そのよぉ…似合うと思うぜ?」

石松は照れくさそうに頬をかいた。竜児の格好はバーテンダーだ。髪も後ろにくくっている。可愛い男の子に見える格好だ。

「えっ!そんな、俺似会わないし…」

竜児は顔を赤くしながら俯かせた。そんな竜児に突然石松は手を掴む。まさに勢いだ。胸が熱い。石松は自分で驚くほど声を出した。

「そんなことねぇよ!絶対かわ…」

しかし、そこでまたもや歓声に石松の声は遮られた。思わず石松はこけそうになる。廊下は女子生徒の歓声で騒がしかった。

「な、なんだぁ?」

三人は廊下に顔を出すと、廊下いっぱいの女子生徒に驚いた。女子生徒を分けてやってきた人物に石松は嫌そうな顔をした。石松にそんな表情をさせるのはもちろん剣崎だった。黒色のマントを羽織り、手には白色の仮面を持っていた。

「なんだ剣崎。おめぇさんのその格好は」

志那虎は半ば呆れるように聞いた。自信を持ちながら剣崎は鼻で笑った。

「フッ、オペラ座の怪人のファントムだ。ファントム。」

「主役かよ!」

石松が歯を剥き出しにする。ハンカチがあれば食いちぎっているだろう。周りの女子がきゃあきゃあと大いに盛り上がっている。

「フッ、俺は客だ。早く案内しろ」

騒ぎなんかを気にせず剣崎が喫茶店に入る。石松は怒り、竜児が石松の腕を掴み止めさせる。じたばたと暴れる石松だったが、突然動きを止めた。諦めたようではない。どうしたのだろう、と竜児が石松が見ている方向を向くと視線の先に剣崎の後ろに誰かが付き添っている。どうやらファンの子ではないようだ。竜児も石松もその女子生徒を見たことがある。あっ、と竜児が思い出す前に石松がその女子生徒に指を示し声を上げた。

「おめぇ河井の浮気相手じゃねぇか!」

廊下で河井と親しげに歩いていた人物だ。女子生徒は首を傾げた。

「え?」

そこでいち早く動いたのはまさかの剣崎である。女子生徒の両肩を掴むと、口をわなわなと震わせている。初めて見る慌てようだ。これには竜児ら三人も周りも驚き固まっている。剣崎は唾を呑み込んだ。

「殉、まさかおめぇ河井の野郎と付き合って…」

「な、何を勘違いしてるんだ兄さん!」

女子生徒の殉は顔を真っ赤にした。

「え?兄さん?」

石松はポカンと口を開けたが、話が一向に見えなかった。





「ふふっ、私は河井くんと付き合っていないよ。彼とは友人なだけですよ」

 殉がにこりと微笑んだ。机に花柄の布を被せただけのテーブルに殉と剣崎が席についている。石松は顔を真っ赤にしながらジュースが入った紙コップを殉の前に差し出した。殉から話を聞いて勘違いだったことがわかった。殉は剣崎の双子の妹で河井とは友人であり、そして生徒会所属の2年生。殉の目の前に座る剣崎はフッと相変わらず笑っている。

「す、すまねぇ!」

両手を合わせて殉に石松は謝る。いいんだと殉は首を横に振ってくれた。

「ね。河井さんは浮気なんかしないよ」

そこへ竜児がパンケーキ2つを持って、テーブルに置いた。さっそく剣崎が食べ始めるが甘いだの文句を言っている。本来ならここで石松が剣崎に対して怒るのだが、今はそれどころではなく自分の勘違いが恥ずかしいらしい。座り込み唸りながらメイド服のスカートで顔を隠している。殉が竜児と顔を合わせると、嬉しそうにした。突然殉は竜児の両手を握ると目を輝かせた。竜児は戸惑っている。

「君が高嶺くんだね!君の話を河井くんからよく伺っているよ。本当に可愛い女の子だ」

竜児は顔を真っ赤にする。殉は竜児にとって綺麗な人だ。そんな人から可愛いと言われると照れてしまった。

「か、可愛くなんかないよ…。総帥の方が綺麗で可愛いよ」

「フッあったりめーだろ。俺の妹だからな」

ぱく、とパンケーキを剣崎はほおばった。殉は「もうっ」と言って照れるとやれやれといった感じで小さく笑う。そんな様子の双子に竜児はくすくすと笑った。それから竜児は教室を見渡す。まだ恥ずかしがっている石松に、しっかりしろと背中を叩いてあげている志那虎。教室はずっと賑わっている。竜児は出入り口を自然と見つめてしまった。

「河井か?」

その名前に竜児は肩を大きく揺らした。剣崎はテーブルに肘をつきながら、フッと笑う。

「あいつは三階で女らとかくれんぼしてやがんのよ」

竜児は首を傾げると、慌てたように殉が剣崎の口を塞いだ。苦笑いを殉は浮かべる。

「河井くんは今、その、忙しくて…。」

「そっか…。なら仕方ないね」

竜児は眉毛を下げらながら小さく微笑んだ。剣崎と殉はそんな竜児を見て、顔を見合わせた。無理をしているそんな笑みに殉は問いただしてみた。

「どうかしたのかい?元気がないようだが…」

まるで小さい子に接しているかのような優しい聞き方だ。いざ総帥を目の前にして竜児は思いつめたような表情をする。胸に手を置いた。足元から服を見つめ、自分の格好に悩んだ。目の前にいる殉は女の子らしい。河井と二人揃って歩いている姿を見て竜児はどう思ったか。

「総帥は本当に俺が憧れるくらい綺麗で…羨ましくて…。いいなって思ってたんだ。」

小さな口はそう紡いだ。双子は突然のことに少し驚くも話を聞く体勢を作っていてくれている。

「でも、こんな俺が河井さんに会いに行っていいのかなって思って…」

石松が河井と殉が付き合っているのではないかと疑っていたが、やはりカップルに見えたのだろう。竜児と河井が一緒に歩いていればそんな風に見られることは少ない。付き合う前から思っていたのだが、やはり自分でいいのだろうかと悩むのだ。それに最近の河井は竜児にぎこちない。落ち込む竜児に対して、殉は優しく微笑んだ。

「高嶺くんはどうしたい?」

「え…?」

竜児は顔を上げた。殉はコップに入ったオレンジジュースを飲むと一息入れた。

「河井くんは本当に高嶺くんを大事に思っている。それに会いたいと言っていた」

「河井さんが?」

竜児の胸がどきりと騒ぐと殉は力強く頷く。殉も剣崎も河井の竜児に対しての愛情はよく分かっているつもりだ。

「高嶺くん、外見も他人の目も気にしなくていいんだよ。大事なことは別にある」

殉の優しさに竜児は唇をかみ締め、感動してしまった。ずっと前から言って欲しかった言葉だったのかもしれない。竜児の目尻は熱くなった。ここで泣いてはいけない。剣崎がにやりと笑った。

「うじうじ考えてもラチが開かねぇ。おめぇはどうしたい?」

もう一度同じことを今度は剣崎に質問された。竜児の気持ちはひとつだ。

「会いたい…河井さんに会いたい…っ!」

竜児はぎゅっと手を握る。今度こそこの手を伸ばして河井の手を掴むんだ。

「石松!ごめん!俺ちょっと行ってくる!」

竜児は走って教室から出た。後ろで石松が何か言っていたが聞こえない。もうこの気持ちを止めることは出来ない。竜児は三階へと続く階段を駆け足で登っていった。









コンプレックス・ジェントル 3















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更新遅くてスミマセン。なんとまだ続きます。次で文化祭編終わります!本当はこの回で終わらしたかったのですが、話が入りませんでした、ぐふっ。
110812

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