甘い空気な文!
□新聞紙
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(志那石?ギャグ。夏に出るイニシャルジーの虫の話です注意)
こんな所で育ちが解ってしまうのもあれだなと志那虎は思った。夏によく出る例の虫が出たのである。リビングで休憩している時だ。竜児が見つけて新聞紙を構え、これは石松も同様でついでに追いかけてやった。しかし、逆に追われる側が三人。志那虎は椅子の上に立ち上がり、河井は足を絡ませながら部屋から出て行った。剣崎はさっきまでいたはずなのだが、いつの間にか姿がない。流石は神出鬼没である。
「ちぇっ、逃げられちまった」
パシッ、と石松は新聞紙を軽く壁に叩いた。棚の隙間に逃げ込んでしまったらしい。竜児が殺虫剤借りてくると言って部屋を出て行き、残ったのは石松といまだ椅子の上にいる志那虎である。すると、二人は目が合った。そんな志那虎の姿に石松は腹を抱えて笑いだした。図体が大きいというのにあんな小さな生き物にびびったというのだから可笑しくて仕方がない。
「ダンナ〜何怖がってんだよ〜!ぶはははっ!」
「こ、怖がってなんかいねぇよ。驚いただけだ」
顔を赤くしながら志那虎が床に立った。珍しく石松がやるみたくふて腐れているではないか。その姿がまた石松の笑いのツボをついた。
「刀で切っちまえばいいのに」
「そんなこと出来ねぇよ、いや、したくねぇな…」
想像したのかげっそりとする。石松はまた笑う。そして、志那虎の剣道の真似をするかのように新聞紙を構えた。
「俺が志那虎を守ってやるよ!」
キラキラした眼差しで石松は歯を見せ笑った。まるで颯爽と現れたヒーローそのものである。マントがあれば最高ではないか。しかし、志那虎は頭を抱えた。これじゃあまるで自分がヒロインではないか。そもそもあんな虫に退けるのも格好がつかない。志那虎は石松の前へ出た。
「俺が退治する」
「ほんとかぁ?」
疑う目だ。しかし、志那虎は諦めない。それに実家ではこういう場合頼られてきた。といっても怖がる妹の前で無理やり退治させられたようなものだ。ただそれは昔の話で、先日実家に帰ると妹があっさりと竹刀で仕留めていた。兄よりも妹は逞しくなっていた。と振り返った矢先に石松が棚下を指差した。
「出た!」
一瞬である。神業の無駄使いというべきか志那虎は石松の後ろに身長ははみ出ているが隠れてしまった。そして、小さな肩を掴んだのである。
「…あ」
志那虎は顔を真っ赤にした。一生の恥だ。石松はこれ以上にないぐらい笑い出す。
「いいから俺にまかせとけって!」
親指を立て、あまりにもかっこいい顔を石松がするので志那虎は目を泳がせた。自分たちの姿はまるで男女カップルで、怖がって叫ぶ彼女に彼氏が奮闘しているようなものだ。唯一違うのは彼氏同士ということだろう。試合の時もそうだが、小さな背中だがやはり頼りがいがある。
「…まかせるぜ」
すると、石松は新聞紙を構え直した。
「おうよ!」
石松がかっこいいと志那虎は惚れているせいもあってか強く想うのだが、自分のこの姿は情けないともんもんとするのであった。
武器は新聞紙!
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昔の作品のオマージュ。ぼっちゃん3人は絶対逃げるに違いない、そうに違いない!かっこよくない3人ですみません。石志那に見えて仕方がない。
110620