甘い空気な文!

□青海謳歌
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(竜河)











 ざっぱーん。波が打ち寄せる砂浜。青い空と海。砂浜に入っていたはずの足は一旦海に浸かって、砂に埋もれてしまった。そんな静かな光景に足を見ていた竜児は口元が緩んで仕方がなかった。楽しみにしていた海だ。ちょうど竜児の前方では石松がはしゃぎ、志那虎が付き合わされている。泳ぐというよりプロレスに近い遊びを二人はしている。竜児はそんな光景を見て笑った。竜児は海に浸かっていた足を砂浜へと歩かせた。竜児の足は浜辺にあるパラソルの元へと向かう。パラソルは海の家で借りたものだ。そのパラソルの下では、河井が座っている。

「河井さんも海に入ろうよ」

にこり、と竜児は河井に声を掛けた。海に濡れている竜児と違って、河井はさっぱりとしている。ここに来てからまだ海には一度も入っていない。河井は半袖のパーカーを着てシートに座っていた。

「うーん…遠慮します」

河井は困った顔をしたあと小さく笑ってみせた。

「え?なんで?」

竜児は河井の横に座った。何か言いたげな河井だが、なかなか言葉は出ない。待っている竜児に河井は恥ずかし気に答えた。

「…日に焼けたくないんです」

竜児は目をぱちくりとさせた。そんな竜児にますます河井は恥ずかしくなった。

「その、肌が赤くなって、痛くなるんです…!それが嫌で嫌で」

両手を小さく振りながら河井は慌てだしていた。河井は肌が白い。日に焼けると小麦色に焼ける所か赤くなってしまうのだ。肌は日焼けした分の皮も剥けてしまうのも不恰好な話である。竜児は納得したが、せっかくの海だ。一緒に海で遊びたい気持ちが強い。

「河井さん海に来たら海ではしゃがないと!ね?」

竜児は誘ってみたものの河井は考え込んでいる。そんな様子を見て竜児はほんの少し寂しくなる。せっかくの海だ。河井と一緒にどうしても遊びたいのだ。あとひと押しである。竜児は考え込むと、ぽんと手を叩いて閃いた。良い案を思い付いたのである。

「河井さーん」

その声はなんとも企みがあるものだ。

「何で…す、うわっ!」

突然竜児は河井の脇あたりをこそばしたのだ。

「高嶺くん!あはっ!あははっ!」

顔を赤くして大笑いする河井。こんな大笑いする姿なんて滅多にない。竜児も楽しくなって、こそばすのを止めなかった。

「僕も仕返しします!」

「わあっ!」

隙をつかれてか河井も竜児の腹あたりをこそばす。大人びている河井には珍しい行動であった。ただ大人びているといってもまだ十四だ。

「あははっ!」

竜児もこそばされて大笑いした。パラソルの下、二人は散々じゃれあったせいでパラソルからはみ出し砂まみれになった。笑い疲れて二人は砂浜で仰向けになって、大きな呼吸を繰り返した。太陽が眩しい。

「高嶺くんったら…」

困ったように河井は笑う。竜児は鼻をかいた。こんなにじゃれあったことはない。なんだか知らない一面を見れた気がして竜児は嬉しいのだ。自分の行動に反省する気はないが、行動を起こしたことは賞賛する。竜児は空を見ていた顔を河井に向けると笑顔を見せた。

「河井さんも!」

それから二人は起き上がって顔を合わせると吹き出した。砂まみれだ。竜児なんて濡れていたせいもあってか、所々砂が泥になっていた。海に来ているというのに浜辺でこんなにもはしゃぐとは思ってもみなかった。河井なんて目に涙を浮かべるぐらい笑っている。

「しょうがないですね。海に入ります」

河井は口の端を上げながら観念した。竜児のの勝利である。といっても河井は海に入ろうと考えていた矢先であった。竜児の誘いは断れない。

「うん!行こう行こう!」

竜児は立ち上がってから河井の手を握ると立ち上がらせた。無邪気な竜児に河井はふふふと笑う。すると、河井の上から影が出来た。頭に麦わら帽子を被らされた。竜児が持ってきたものだ。

「これなら焼けないよ」

優しい竜児の声は海のさざ波のように聞こえる。河井は日焼けでもしたかのように顔が赤い。胸が焦がれたような想い。河井は竜児に腕を引っ張られながら走った。案の定海に行けば石松と志那虎に驚かれた。砂まみれの二人を見て石松は大笑いをし、志那虎も笑っている。確かに笑える格好なのだ。竜児と河井は向かい合わせになるとまた共に笑い合った。










青海謳歌













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珍しくタイトルが先に思いついた作品。海の話と二人がじゃれあうのを書きたくて書きたくて、書いちゃいました!青春だね!
110722

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