甘い空気な文!

□天上の花1
1ページ/1ページ

(※竜河連載/遊郭パロです。河井さんが男なのに遊女してたり、用語や時代背景など勉強不足な所があります。また時代は違ってもキャラクターのしゃべり方はそのままです。ご了解した上でお読み下さいませ。)














花が舞う。
幼子の手に花びらは落ちる。幼子は上を見上げると多くの花が舞っておるのを目に焼きつけた。赤い格子、着物を着た女たち、そして桃色の花が舞う妖しめかしくも美しい空間。幼子はここが天上の楽園ではないかと思った瞬間だった。








天上の花







 花の都・吉原遊郭にやってきたのは菊九つと竜児六つの時であった。両親を流行り病で他界してしまい、それを何処から聞きつけたのか薄汚い男らが家にいた菊と竜児を連れ吉原に売り飛ばした。菊は禿に、竜児は裏方の仕事をさせるがどちらも問題児であった。菊は逃げる騒ぐ喧嘩に走る、竜児は泣きべそかき。菊は同じ禿に喧嘩を売って、竜児は泣き声が五月蝿いと二人は折檻を受けた。その日、姉弟二人は水責めにあって庭に転がっていた。深夜のことだった。頬を真っ赤にして泣いてばかりの竜児に菊は言った。「私らはここで生きていくしかないっちゃ。なんにもしてあげられなくてごめんな竜児」折檻されても泣かなかった姉が初めて泣いた。悔しさと哀しさが涙に変わる。菊は悟ったのだ。この吉原から出られまいと。竜児はその日を期に泣かなかった。折檻されても怒鳴られても竜児は唇を噛み締め泣こうとしなかった。ここで生きていくしかない。幼い竜児は心決めたのだった。





 十年の歳月はあっという間に過ぎた。相変わらず吉原は変わらず。昼八ツ時。夜とは違い、吉原はまだ人が少ないが物売りは盛んだ。一人青年は物売りから頼まれ事の買い物をした。みずみずしい野菜を背負っている。青年は赤い格子の前を通ると中にいる遊女らに小さく頭を下げた。この時昼見世が始まる前で、徐々に遊女らが集まり出していた頃だった。遊女らはお手玉や文を書いていた手を止め、青年に頬を赤くした。

「竜ちゃん、おいでよぉ、ねぇ」

赤い格子から長く綺麗な腕が伸びた。丁寧にされた研がれた爪と共にその手は青年の青い着物を引っ張っる。青年の竜児は振り向いた。格子の向こうには美しい桃色の着物を着た女だ。女の赤い唇は弧を描いて舌ったらずな喋りに呼ばれた竜児は頭を掻いた。

「だめだよ、俺は」

笑顔で竜児はそっと手を放してあげると、逃げるように立ち去った。女が何か文句を言っていたがいつものことである。竜児は少し走ると再び歩いたがやはり周りは女、女、女ばかりだ。見慣れた光景だ。竜児の歳は今年で十六になる。十年の歳月は立派な青年へとさせた。竜児の姉の菊も今頃はあの赤い格子にいるだろう。菊は少々問題児ではあるが評判の良い遊女になった。
竜児は数分走って茶屋に着いた。玄関を潜るとそこには見知った顔があった。

「相変わらず人気だなぁ」

ひよっこりと現れたのは妓夫の石松だ。玄関に竜児は買ったばかりの野菜を置くと休憩がてら座った。竜児と石松とは同年代もあってか仲が良い。

「幸子に引っ張られたんだってな?いいなぁ竜は」

皮肉を込めて石松は笑う。石松は情報通だ。誰かが見ていたのだろう。本来遊女は格子から手を出さない。すぐにその情報は石松の耳に入る。

「そんなことないよ」

竜児は頬をかきながら言った。羨ましい羨ましいと石松は言う。竜児は非常に愛想が良く礼儀正しいと評判で、これまた顔も良いと人気者だ。石松は喋りは上手いと評判だが、低い身長と顔は女には好かれないらしい。それにすけべえだ。

「俺は客は呼ぶが、女にゃあ呼ばれねぇよ」

どっこらしょと石松は玄関に座り込むと鼻息を荒くした。顔を変えて面白可笑しく石松は話すものだから竜児はつられて笑った。すると、石松は胸元に手を突っ込み着物から文を出した。

「そうだ、竜。ひとつ頼んでもいいか?この文を…よぉ」

石松は照れながら言った。

「姉ちゃんに?」

「わかってるじゃねぇか」

いつものことじゃないかと竜児は笑った。石松は菊に惚れている。茶屋で働いている分、会うことは出来るがここは吉原だ。金がないと遊女を嫁にすることも出来ない。それでも石松は文を書くのは惚の字だからなのだろう。

「姉ちゃんのどこがいいのさ?」

竜児は受け取った恋文を懐にしまいながら聞いた。よくぞ聞いてくれましたと言わんばかりに石松は竜児の背中をおもいっきり叩いた。痛いと竜児は呻いたが、石松は顔を赤く染めながら鼻の下を伸ばしている。

「俺ぁ菊姉ちゃんを見た時に天女様かと思ってよぉ!美人で優しいし、それに…」

「あ、代わりに野菜持って行っといてね」

こうなると石松の話は長い。竜児はそっと立ち上がると玄関を出ようとした。

「竜も恋してみろよぉ〜!」

いってらっしゃいの代わりにそんなことを石松は大声で言った。竜児は茶屋を出てから姉のいる茶屋へ向かう。茶屋は数件ある。菊がいるのは別の茶屋だ。道を通るが、周りはやはり赤い格子の中にいる遊女ら。竜児は思った。あんなに石松を夢中にさせる"恋"とは余程良いものなのだろうか。ここで恋などしても実ることはないとわかっている。金はない、地位もない。毎日女は見てきているが惚れるなどしなかった。そういえばと竜児は思い出す。恋とは違うが慕っていた人は幼き頃おった。とても世話になった人だ。その人は太夫だった。

「(もしかしたらあれは初恋だったのだろうか…)」

もうあの人は吉原にはいない。その人の細く綺麗な声を竜児は静かに思い出した。すると、目の前に桃色の花が落ちてきた。花が舞っている。竜児は目の前をひらひらと落ちるそれが懐かしく思った。片手を差し出すと、花は竜児の手に着地する。幼い頃見た光景と重なる。ここが天上の楽園ではないかと心焦がれたものだ。今はどうだろう。あれから一度もそんなことを考えてたことはない。しかし、花は変わらず美しかった。その想いだけは変わらない。

「綺麗だなぁ…」

上を見上げ花が空を舞っているかと思ったが、違う。梅の木は側にない。二階の茶屋から花が舞っているではないか。風に運ばれるよう穏やかに花は竜児に降り注ぐ。窓際で花を流している白い整った手が見えた。竜児は誰が流しているのか気になって、見える位置へ二三歩横に動いた。すると、その人物と竜児は目が合った。窓際にいるのは綺麗な人であった。黒い髪に、白い肌を持つその人は竜児に微笑みかけた。なんて美しい方なのだろう。妖めかしくもぞっとする美しさ。その人はすっと後ろに下がる。舞う花だけが残された。竜児は呼吸をするのを忘れてしまった。心臓を持ってかれたのかもしれない。竜児は心臓があるかどうか胸を掴み確かめる。預かった恋文がくしゃりと音をたてた。













---------------
ずっとやりかった遊郭パロ!!!勉強不足のところがたくさんあります。申し訳ございません。妓夫はお客さんを呼ぶ人のことです。竜ちゃんは次の話で何やってるか書きます。
110728

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ