甘い空気な文!

□スターライン
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(50title企画小説/双子×河井/ギリシア十二神戦前ぐらいのお話)








 枕が固い。何度頭を動かしても枕は柔らかくなることはなく、河井は布団から起き上がった。深夜のことだった。ここは河井の実家ではなく、影道館だ。自分の部屋ではないこの部屋に違和感ばかりを感じて仕方がない。横では呑気に石松がいびきをかきながら寝ている。竜児はすやすやと寝息をたて、志那虎は石松の足が腹の上にのって呻いてはいるが寝ている。河井はくすくすと笑った。寝る姿が羨ましい。別に枕が違うから眠れないということはないのだが、どうも寝付けない。といっても枕は柔らかめがいいと河井は考えている。

「…あ、」

河井の目に入ったのは珍しく一緒に布団を並べ寝ている人物・剣崎である。河井が布団に潜った時は剣崎の布団はモノケのからだったはずだ。四人が寝たあとに剣崎はやって来たのだろうと河井は予想を付けた。珍しいと河井は剣崎の顔を覗き込んだ。そこには眉間に皺を寄せながら寝てる剣崎の姿があった。思わず河井は吹き出してしまった。なかなか深夜の発見とは面白い。河井は眠れない代わりに外に出ようと思った。静かに立ち上がり、そっと部屋を忍び足で出て行く。戸を閉めてから縁側に体を向ける。すると草木が見え、上を見上げれば満天の星が見えたのだった。空気が澄んでいるおかげだろう。河井は微かに笑みを浮かべた。

「綺麗だなぁ…」

「今日は一段と空気が澄んでいるから星がよく見えますよ」

返ってきた声に河井は思わず肩で驚いた。普段なら聴覚でわかるはずの人の気配が分からなかった。星に集中していたせいもあるが、やって来たのはここの主でもある総帥の殉であった。

「あ、すまない。驚かせてしまったようだ…」

殉は申し訳なさそうに頭を下げた。決して気配を消していたわけではないが、癖で気配を消していたのだろう。さすがは一族の総帥だ。河井は横に頭を振った。

「いえ、気にしないで下さい」

河井はそう言うと、縁側に座った。そのまま星を眺める。寝る雰囲気ではない河井に殉は首を傾げた。

「河井くんは寝なくていいのか?」

河井に聞きながらも殉も右隣に座った。

「えぇ、眠れなくて。総帥は?」

「私は…その…皆が寝れてるかどうか気になって」

殉も星を眺めたがもっと遠くを見つめているようだった。数日後にまた戦いの幕を開ける。自分のことよりも皆を心配してくれる殉の気遣いに河井は微笑んだ。

「ありがとう、総帥」

面と向かってお礼を言われ、殉も小さく笑ってみせた。少し照れくささもあった。そこでふと河井は殉を見て誰かを彷彿とさせる。殉と顔は同じでも性格は全くといっていいほど似てない男のことだ。

「みんなぐっすり寝てますよ。総帥のお兄さんもちゃーんと寝てましたよ」

河井はわざとお兄さんの単語を強調して言ってみる。殉はくすくすと笑った。兄の普段のことはメンバー(特に石松)から聞いている。一匹狼で一緒に布団を並べ寝る姿さえあまり見たことがないということも。そんな兄が皆と寝ているならと殉は内心ほっとした。

「それは良かった」

殉が柔らかく微笑む。すると、突然河井が乗り出すように殉の顔に顔を近付けた。突然のことに殉はどきりとすると、思わず後ろに手を付いた。何を思ったのか河井は殉の眉間に自分の人差し指を押し当てた。

「あの人ここに皺を寄せながら寝てました。ふふっ、やはり似てますね」

殉の目の前で河井が悪戯な笑みを浮かべた。すると、殉は一気に顔を赤くさせた。唇が震えて言葉が出ない。こんなことは殉にとって初めてだ。顔が熱い。

「あ…の、河っ…」

まるで金魚みたくぱくぱくと口が小さく開くばかり。

「何やってんだ、おめぇら」

まるで硬直が解けたかのように、よく知った声が聞こえてきた。

「兄さん」

廊下には殉の兄、剣崎が立っていた。慌てる殉に対して、剣崎は眠そう頭をかいた。それから首に手を置く。枕が固くて痛かったのだろう、それで起きてしまった様子だ。河井は剣崎に振り向いた。

「あなたがここに皺寄せて寝てたっていう話です」

殉に押さえたいた人差し指を河井は自分の眉間に移動させた。剣崎は河井を見てフッと小さく笑うと二人の元へ歩いた。それから河井の横に座った。河井が双子の兄弟に挟まれる形になった。河井は二人を交互に見てから剣崎に向くと河井は笑ってみせた。

「顔だけは似てますね」

「フッ、顔だけってどういう意味だよ」

ほら、と剣崎の態度に河井は同意を求めるよう殉に顔を向ける。兄と河井の掛け合いは殉が知らない二人の仲を垣間見た気がした。戸惑った殉だったが、今はこの仲にいるのだと思うと嬉しくて笑った。剣崎はじっと殉を見つめると、フッと笑う。

「案外好みとかは一緒だよな。なあ殉?」

剣崎の話に殉はえっ、と驚いた。剣崎は目を細くして、にやりと笑う。見透かされているようだ。殉は兄の笑みを理解すると、みるみるうちに頬を赤くした。隠すように両手で頬をついた。剣崎はふんとなぜか自慢げに鼻を鳴らす。

「へぇ、やっぱり兄弟ですね」

河井が二人の心情など知らずに微笑んだ。夜だというのに星が明るく、三人の雰囲気を表しているかのようだった。










スターライン














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今回書くに到って漫画読み返したら、わたし影道館をシャドウカンって言ってたけど、シャドウヤカタであると初めて知りました…総帥すんませんッ。どろどろさせないで青春してる三角関係にしました。河井さんもてもて!

リクエストありがとうございました。美羽紗様に捧げます!
110815

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