甘い空気な文!

□甘い午後
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(50title企画小説/テセ×アポ)









 砂糖シロップがたっぷりかかったバクラバをテーセウスは口に含んだ。パイ生地とクルミの菓子は香ばしさがあって、パリッと音をたてる。美味しそうな響きにも聞こえるが、食べている本人はなかなか飲み込めずにずっと口を動かしたままである。テーブルを挟んだ真ん前にいるアポロンはテーセウスとは真逆に次々とバクラバを綺麗にフォークで切っては口に運んでゆく。白いテーブルにはバクラバ2つ。アポロンのは完食に近く、テーセウスのものはまだ半分以上も残っている。テーセウスは頑張ってフォークをバクラバに刺して、また口に運んだ。

「なかなか甘いものだな…」

テーセウスは眉毛を下げなから呟く。

「甘くて美味しいではないか」

アポロンは機嫌良く話し、テーセウスは乾いた笑いをする。それからテーセウスは辺りを見渡した。男二人でデザートを頬張る組は我々しかいない。あとは男女と女同士の組み合わせだ。なんだか恥ずかしい。外壁は白いが店内はなんとも女性らが好みそうな柔らかな配色である。

「イカルスたちから話を聞いてずっと食べてみたいと思っていたんだ」

アポロンはフォークにバクラバを刺しながら頬を綻ばせた。アポロンが言うように先日イカルスが師のペガサスと一緒にこの店に行ってきてはとてもデザートが旨かったと話を聞いた。その話に続いてオルフェも音楽仲間と行ってきたといい、ユリシーズも土産で貰ったと話をした。話題はその店のデザートの話で持ちきりになった。その時テーセウスはただ聞いてるだけでそのデザートに魅力というものを感じてはいなかった。

「(よくこんな甘い物が食べれるな…)」

テーセウスはごくりとデザートを飲み込んで思っていたことも言わず呑み込んだ。それからグラスに入った水を飲む。水も何度飲んだのだろう。

「うむ、美味しい」

ただ目の前にいる相手は満足そうに食べている。テーセウスは溜め息と共に小さく笑った。デザートを食べるより遥かにアポロンと一緒にいるひとときがテーセウスにとって嬉しいのだ。テーセウスはフォークを置くと、デザートに夢中なアポロンをじっと見た。いくら一緒にいるといっても、こうもデザートにしか目を映していないアポロンに多少不満がある。

「フッ、私は君がこんなに甘い物が好きだとは驚いたぞ」

テーセウスはにやりと笑ってみた。まさしくこれはデザートに嫉妬、である。すると、アポロンの目がやっとテーセウスを写した。深い緑色の瞳にどきりとさせられる。

「私は…。テーセウス、君は甘い物が苦手だというのにここへ誘ってくれたことに驚いたよ」

アポロンは優しく微笑んだ。空になった皿にフォークをそっと置く。

「(ああ、知っていたのか…)」

甘い物が苦手だということを。そして、私の君への気持ちも。
デザートの話題を聞いた時のアポロンは「私も食べてみたいものだ」と羨ましそうに言っていた。その言葉を聞いてテーセウスはアポロンを誘ったのだ。まさに何も考えずに誘った。自分は甘い物が苦手だということも忘れて。

「私は嬉しかった。甘い物が苦手なのにテーセウスが誘ってくれたからな」

アポロンのベタついた甘い手が、テーブルに置いてあるテーセウスの手と重なる。テーセウスは手から視線を上げると、顔を赤くして微笑んでいるアポロンの顔がそこにあった。

「次は私が君を誘おう。どこか行きたい所はあるか?」

面と向かって言われるとなんだか恥ずかしいもので、テーセウスは食べきれないバクラバに視線を移した。きっと自分も顔が赤いに違いない。少ししてからテーセウスはアポロンの添えられた手を握る。テーセウスはフッと笑うと答えた。

「君とならどこへでもいい」

「そうか…」

柔らかくアポロンは嬉しそうに笑った。

「じゃあ、次はカタイフィを食べに行かないか?」

アポロンがわざとらしい言い方をすると、テーセウスはまた同じように笑ってみせた。

「フッ、いいぞ」

「カタイフィも甘い物だぞ?」

驚いているようで笑っているアポロンに、テーセウスは空気を大きく吸ってさきほどと同じことを言おうとしたが照れが勝ってしまった。

「二度も言わすな」

拗ねるようにテーセウスは食べかけのバクラバを口に入れたがやっぱり甘くて、眉間に皺を寄せる。アポロンはそんなテーセウスに微笑んだ。アポロンを見てテーセウスはやはり君といるこのひとときが好きだと再確認した。甘い物は苦手だが、この繋いだ手のベタつきは良いと思った。











甘い午後のひととき















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初テセアポでした。バクラバとカタフィはギリシャのお菓子です。甘くて美味しそう。勝手な好き嫌い設定つけてすみません!テセウスは辛いものが好きそうかな!

リクエストありがとうございました!テセ×アポをリクエストして下さった方に捧げます。
110818

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