甘い空気な文!

□カラースコープ
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(50title企画小説/志那×石)











 女の子がもちろん好きだと石松は自覚している。友人たちと女の子の好みについて話はするし、アイドルにだって詳しい。可愛い女の子がいれば目で追うこともある。今も目で追ってはいるが、今回は別の意味である。とある光景を石松はふて腐れながら見ている。見ている方向にもちろん女の子が二人、そして男一人が何やら喋っている。

「(はあ、さっきから何喋ってんだよぉ)」

石松は炭酸ジュースをストローでおもいっきり吸った。好きなジュースだが、今は味わう所ではない。ジュースをトレーに置いてから一緒にあったハンバーガーを手に取り頬張る。ここのファーストフード店で新作のハンバーガーだ。しかし、石松は味わうより噛みちぎるかのように食べている。カウンターチェアに座り、床に着かない足をバタバタさせた。一向に三人の話し終わる気配はない。話をしている女の子二人を石松は知らない。可愛いくていつもなら目で追っていることだろう。しかし、今回は女の子より男を目で追っていた。その男を誰だか石松は知っている。といっても石松が連れてきた志那虎その人である。

「(でれでれしちまってよぉー、鼻の下伸びてんじゃねぇか!)」

そう石松は思っているが志那虎の顔はそうなっていない。むしろ誠実さがあって真面目に話を聞いている顔だ。普段の石松の方が鼻の下を伸ばしていることが多い。
女の子らに話掛けられる前は志那虎と二人でハンバーガーを買いにレジに並んでいた。石松が先に会計を終えては席を確保し、志那虎も会計を終えこちらに向かってくる際に女の子二人に話し掛けられたのである。どうやら志那虎のファンのようだ。ファンに声を掛けられるのはいつものことだ。石松も声を掛けられたら嬉しいことに変わりない。今回も「やるねぇ、だんなも」と石松は羨ましいといわんばかりにニヤニヤと笑ったが時間が経つに連れ苛々は募る。

「(俺とハンバーガー食べに来たんだろう?なぁ志那虎のだんな…なぁ…)」

なんだか志那虎を取られたみたいだ。石松の動かしていた足はだらんと下がる。ごくりと最後の一口のハンバーガーを飲み込んでしまった。とうとう食べ終わってしまった。ハンバーガーを包んでいた紙をくしゃくしゃと丸め込んだ。
話がようやく終わり志那虎が石松の元へと急いで走って来た。据わっていた目をしていた石松だが、戻って来ると慌てて頬を両手で叩く。ふて腐れている顔を直したつもりなのだろう。それでも機嫌は悪いままだ。ついついぶすっとした態度で睨んでしまった。

「すまない、石松。遅くなった」

石松とは対照的に志那虎は申し訳なさそうに柔かく微笑んだ。目がとても優しい。石松は見とれてしまって何も言えなかった。女の子らにはしていなかった目だった。石松のみに向けられる目だ。

「石?」

声をもう一度掛けられ、石松は正気に戻ったが顔は赤い。

「な、なんでもねぇよ!んなことより食べ終わっちまったぜ!」

紙くずと空になったジュースを指差した。志那虎は後ろ頭を掻いた。

「そいつはすまんな。話がなかなか終わらんくてな…」

ハンバーガーが乗ったトレーをテーブルに置いてから志那虎は座った。石松はぶぅっと頬を膨らませる。不機嫌そのものだ。

「そいつは良かったなぁー」

女の子と喋れて。石松は口を尖らせる。

「ああ。昔は怖がられて誰も俺に近寄らなかったのにな」

嫌みを言ったはずだったのに通じなかった。それよりも志那虎はほっとしたように答えたのである。そんな志那虎を見て石松は後悔した。すべて一人相撲の考えだった。

「(俺、わかってたはずなのに…。志那虎が女の子に鼻の下伸ばさないことも、本当は早くこっちに来てくれようとしたことも。)」

一人で苛々して、志那虎に八つ当たりをしてしまった。膝の上で石松は拳を作る。後ろめたい気持ちに溢れる。食べるのだって待てたはずだし、喜んで出迎えれば良かった。すると、下を向く石松の頭に志那虎の大きな手が降ってくると撫でられた。

「話掛けられるようになったのも石松のおかげだな」

「え?」

石松は顔を上げた。相変わらず志那虎は石松に優しい眼差しを向けている。撫でていた手をそっと放す。

「半分こにしよう」

志那虎はハンバーガーを持つと、それを半分に割って石松に手渡した。きょとんと石松は目を丸くする。

「女の子と喋るためにここに来たんじゃねぇからな。石松とハンバーガーを食べるためにここに来たんだ」

ニッと志那虎が小さく笑った。石松が考えていることなど何も知らないのだろう。石松は半分になったハンバーガーを見て無性に泣きたくなった。志那虎の言ってくれたことがとても嬉しかった。鼻を啜るとぽつりと石松は小さな声を出した。

「…ごめんな志那虎」

「おいおい、何で謝るんだ?」

眉毛を歪める志那虎に石松はくくくっと面白可笑しく笑う。

「ん、こっちの話!あんがとな!いただきまーす!」

ハンバーガーにかじりつくと肉の味がしてレタスがシャリと音をたてた。今度は確かに旨いと感じる。石松は満面の笑みを志那虎に向けた。








カラースコープ










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志那虎視点も考えましたが、石松視点の方が珍しいかな!と思い書きました。ぶすーとしてる石松は可愛いと思うんだ…!

リクエストありがとうございました!
志那×石嫉妬話リクエストして下さった方に捧げます。
110827

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