甘い空気な文!

□トル
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(文化祭編その4)











 公園に男の子の泣き声が響いていた。男の子といっても見た目は女の子のように可愛い。しかし、そのことで泣いてるのだ。そこへぼさぼさの髪をした女の子がやって来た。着ている服なんかズボンで、髪も短い。まるで男の子みたいだ。その女の子は男の子の側にゆくと頭を優しく撫でた。

「いたいのとんでけーっ!」

明るい声が公園に響いた。女の子は撫でた手を空へと伸ばす。男の子は恥ずかしそうにしたが、鼻を啜って笑みを浮かべた。女の子はにひっと可愛らしく笑う。

「いっしょにあそぼう!」

女の子は男の子に手を差し伸べた。







大にぎわいの廊下、人を掻き分け走る人物が一人。文化祭の出し物に目もくれず竜児は走った。目指すは河井のもとだ。勢いとは凄いと竜児は前を見ながら思う。あんなに渋っていた自分が会いに走っている。竜児は自分の手のひらを見た。あの時伸ばせなかった手。昔は伸ばせたのにね、と竜児は自嘲気味に笑う。だん、と勢いよく階段を登り足を踏みこんだ。そこには大人数の女子生徒の壁があって竜児はぽかんと驚いた。ここまで人気だとは思っていなかった。竜児は唖然としていたが首を横に振るうとぐっと手を握る。そして、女子生徒に突っ込んでみせた。
 そんな中にいる河井は竜児が来ていることも知らず、ひきつった笑みを浮かべていた。頼みの友人二人はどこにいったのか。あの双子の片割れにはめられたのかもしれない、と河井は溜め息を吐いた。

「(ああ、泣きたい)」

河井は笑みを見せながらそう思った。思い出されるのはあの惨めな自分なわけで、肩が重い。

「(何のためにこんな格好してるんだっけ…。ああ、客寄せになるからだった)」

あとコンプレックスがどうとか。双子の片割れが言っていたことを思い出した。"気にしすぎだ"確かにそうかもしれない。河井は恥ずかしさのあまり唇を噛み締めた。慣れない口紅の味がする。こんなことで悩んでどうする。下らないコンプレックスのせいで、何を迷っているのか。

「(高嶺くん、)」

彼女と一緒にいて、二人で性別を間違えられたことが確かにあった。河井は気にしたが彼女はそんなそぶりさえも見せたことがなかった。そのあと間違われたことなんか忘れて、二人で楽しく喋ったことを思い出す。

「(会いたい…)」

河井は人を掻き分けるように腕を伸ばした。求めるは竜児だ。すると、誰かが河井の手首を掴んだのだ。これには河井は驚いたが、そのまま引っ張られる。女子生徒の渦から河井は飛び出した。白いドレスが引きずったが、気にもならなかった。なぜなら引っ張る相手はそう、竜児だ。

「高嶺くん…!」

一生懸命竜児は河井を連れ走る。周りが何か騒いでいるが気にも止めない。竜児は額に汗をかきながら走っている。河井は竜児の手を強く握った。自然と河井は小さく笑みを浮かべていた。

「(高嶺くん、君は…)」





二人がたどり着いた場所は音楽室だった。ここは高価な楽器などが置いてあるため、今回文化祭をするに辺り教室は使用されていない。二人は息を切らして壁に凭れると座り込んだ。呼吸を整えたあと竜児は自分が仕出かした行為にはっと驚く。

「ご、ごめん河井さん!引っ張って…河井さん?」

横にいる河井に竜児は謝るが、河井は三角座りをして顔を伏せている。どうしたものかと聞こうとしたが、ぽつり、と河井は小さな声で言った。

「高嶺くん、あのっ、見ないで下さい、お願いします…」

若干見える河井の耳は赤かった。いざ本人を前にすると自分の格好は恥ずかしい。竜児は少し考えてからそっと河井の髪を撫でた。

「俺は…河井さんを見たいな」

優しい声に河井は目を見開いた。竜児は言葉を続ける。

「ずっと河井さんと会いたくて、声も聞きたくて…だから連れ出しちゃった」

最高の口説き文句だ。河井は顔を熱くする。顔を伏せていて竜児の表情はわからないが、きっと優しく微笑んでいてくれている。それしか頭になかった。自分はカッコ悪いなと河井は思った。彼女の行動は遥かにかっこいい。

「…笑いません?」

「笑わないよ」

そうしてゆっくりと河井は顔を上げた。隠れていた河井の顔も格好もまさしく女の子だ。白いドレスに花の冠をかぶっている。化粧もされとおり、頬はチークでほんのりと紅く、唇は頬に負けずピンク色の口紅が彩っていた。思わず竜児はわあっと声を上げ、赤面してしまった。

「河井さんすごく綺麗!綺麗だよ!」

目を輝かせ褒める竜児に河井はますます顔を赤くしたが、なぜだか嫌な気分はない。あんなに気にしていたことがあっさりと気にしなくなっていた。それよりも竜児が褒めてくれて、河井は困ったように笑った。

「あっ、ほら俺も男の子の格好だしおあいこだよ」

竜児はベストを見せるに服を引っ張った。にひっと幼き頃見た変わらない笑みを竜児は向けてくれる。安心させようとしてくれている笑顔だ。それは何年も幼なじみをやっていて分かったことだ。河井はそんな竜児が愛しくて思わずキスをした。竜児は驚くと一気に頬を赤くする。

「いいえ、やっぱり高嶺くんはどんな格好をしても可愛いです」

ふふっと河井は笑う。竜児はそんな河井に泣いてしまいたいほど胸が熱くなった。聞きたかった言葉だ。いや、ずっと前から河井は何度も言ってくれていた。可愛いも、好きも。

「すみません、口紅が付いちゃいましね」

河井が竜児の唇に手を伸ばして、口紅を拭う。その途中なのに竜児は口を開け話をし出した。ずっと思っていたことを伝えたいがための勢いだ。

「河井さん!文化祭終わったら久しぶりに…一緒に帰りたい!」

すると、小さく驚いた河井は笑みを浮かべると竜児の手を握った。

「手を繋いで?」

「…うん!」

竜児は大きく頷く。河井はそんな竜児を見届けてから握った手の甲にキスをした。姫が王子の手に誓いのキスをする。格好が逆だね、と竜児は幸せそうに笑った。











コンプレックス・ジェントル 4






















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ずっと書きたかった文化祭編でしたー!男の子みたいな女の子と女の子みたいな男の子の根本を前面にだしたものでした。遅い更新ですみませんでした!!!次からは最終章に突入できるよう頑張ります。
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