甘い空気な文!

□熱の所為
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(竜と剣崎)









 ひっきりなしに竜児はくしゃみを繰り返した。鼻は垂れるし、頭は痛い。立派な風邪である。布団に潜ったがどうも寝付けるはずもなかった。というのも朝だ。いつも早朝に起きて皆とランニングをするのだが、竜児は部屋で一人布団に潜っている。枕の横には水が入った洗面器にタオル、スポーツ飲料が置かれていた。これは皆が用意してくれたものだ。こういう時の優しさは安心と暖かくさせる。

「(早くみんな戻ってこないかな…?)」

天井を見ながら竜児は思った。人が恋しいとはこのことだ。竜児は部屋を見渡した。その時ぼろりと涙が溢れた。熱のせいで目が潤っている。別に泣きたいとは思っていない。自然と溢れてくる。竜児は目を擦った。

「(寂しい…)」」

それから色々考えたのだが、覚えていないのは眠ってしまったからであった。
 何時間寝たのかわからない。竜児が寝て長いのか短いのか。そんな頃に竜児は息苦しさを覚えた。呼吸がどうも苦しい。熱が上がって風邪が酷くなったかと思ったが、どうやら違うようだ。そんな息苦しさではない。何か口元にある。竜児は唸った。眠りから竜児は起こされてしまった。

「…んが、ふがっ」

竜児は目を開けた。ぼんやりとした視界には影があった。ゆっくりとそれは明確になる。

「けふさき…」

竜児は確かに相手の名前を言ったのだが、呂律が回っていない。けふさき、いや剣崎が竜児の口元に手を置いていた。すると剣崎はくくっと笑った。

「死んでるのかと思った、フッ」

だから口元に手を置いたそうだ。手はゆっくりと離れると相変わらず剣崎はにやりにやりと笑う。竜児は鼻を啜った。この剣崎の悪戯顔には覚えがあった。出会った当初を彷彿とさせたが、こんな悪戯は可愛いものだ。

「剣崎も丸くなったね」

剣崎は竜児の唐突な言い様に首を傾げた。やはり熱があるようだ。竜児は布団に口を当てながら、ふふっと面白可笑しく笑っている。

「昔の剣崎なら俺に水を掛けそうだ」

「んなこと…」

剣崎は途中で喋るのを止めた。図星だからだ。そんな時代もあったもんだ。剣崎は何も言わずその話をすることはやめた。竜児は相変わらず何が可笑しいのかくすくす笑っている。これもきっと熱の所為だ。

「なんで剣崎がここに?あ、もしかして俺のお見舞い?」

「バーカ。そんなことするわけねぇだろ。たまたま寄っただけだ」

ふっ、と剣崎は鼻を鳴らすと余所見をする。本当にたまたまだ。部屋を覗いたら竜児だけがいただけだ。なぜ留まってしまったのか。そんなのこっちが聞きたい。

「(おめぇが泣いてたからだ…)」

ケラケラ笑う竜児を見ながら剣崎は肩を下げた。何事かと思ったがどうやら大丈夫なようだ。自然と口元にも笑みが出る。剣崎は立ち上がった。

「俺はおめぇみてぇに寝てる暇はねぇんだ。フッ、じゃあな」

「あっ、待ってよ」

竜児の熱い手が剣崎の手を掴んだ。眉を潜めた剣崎だったが、座り直す。竜児はにこりと笑った。

「剣崎、俺暇だからゲームしようよ」

思わず剣崎は「なんでだ」とすかさず聞いた。さっき暇はないと言ったはずだ。しかし、今の竜児に通用しないらしい。

「俺が次に目を覚ますまで剣崎がいたら、剣崎の勝ち。いなくなってたら剣崎の負け」

「なんだその一方的なルールは?」

こんな下らないゲームに乗るわけがない。珍しく強引な竜児に剣崎はますます眉間に皺を寄せるのだが、竜児は嬉しそうに笑っている。

「じゃあ、おやすみなさい」

竜児は布団を引っ張り直すと目をゆっくりと瞑った。

「あっ、おい!」

珍しく竜児に振り回されている。すやすやと竜児は寝息をたて始めた。顔は微かに火照っている。一応これでも病人だ。剣崎は怒鳴りはしなかったが、呆れてしまった。それは竜児に対してか、自分に対してか。

「どっちが勝ちなんだか」

繋がれた手を見て、剣崎は溜め息をつけるしかなかった。病人には優しくとはこのことを言うのだろう。竜児は寝ながらふふっと小さく微笑んだ。









熱の所為













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風邪ネタ。風邪引くと人が恋しくなりますよね!
111205

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