甘い空気な文!

□白の策略
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(剣河/甘い話。さすがクリスマス)










「プレゼントはなにがいい?」

 そんな台詞に河井は思わず飲んでいた茶を吹き出しそうになった。これが姉や家族、友人なら驚くこともなかったが相手はあの剣崎だ。河井は驚いた顔のまま剣崎を見たのだが、彼は笑ってもいないしふざけているような素振りもなかった。固まったままの河井に剣崎は眉を潜める。テーブルの上で剣崎は肘をつけた。

「だから、何がいいんだよ」

「あ、あの、ちょっと待ってください」

河井はようやく動いたのだが、まだ信じられないという慌てぶりだ。そもそも剣崎という男がこんなことを聞くのだろうか。河井は次にじっと不安そうに剣崎を見つめるのだが、当の剣崎はフッと笑う。

「世の中クリスマスってやつだ。たまたまそのクリスマスにのってやろうと思っただけだ」

「そうですか…」

ただの思い付きのようだ。クリスマスという今日もあと数時間で終わる。河井は肩を落としたのだが、難問は解決していない。

「プレゼント…ですか」

「ああ。早く言えよ」

「そんなこと急に聞かれても…」

河井はうーんと首を傾げた。プレゼントは素直に嬉しいのだが、何をもらってよいのやら。剣崎のことだからどんなに高い値段でもプレゼントしてくれるだろう。車やそれまた飛行機、言えばあっさり持ってくると想像して河井は首を横に数回振るった。実用的なものもいいのかもしれない。 欲しい楽譜のことや、新しい服など。しかし、それは自分でも買える物だ。それに剣崎からのプレゼントだなんてそうそう貰えることはない。ここはしっかりと考えたい。

「時間下さいよ」

河井は頼んだのだが、剣崎はまたフッと笑う。

「そいつは無理だ。今答えないんだったらこの話はなしだ」

「えっ、そんな」

困った。慎重に考えようと思っていたのに、今すぐ答えを言わなければいけない。いつもは冷静な河井でもさすがに参った。

「え、えっと」

「さん、にー、いーち」

くくっと剣崎は数えながら困っている河井を見て笑っている。意地悪だ!と河井は思っていつもなら不貞腐れてやりたいところだが、時間がない。頭はぐるぐると悩ます。クリスマスは何をするのか。チキンを食べ、ケーキを食べ、サンタからプレゼントを貰う。サンタは日本じゃあ母親か父親で、プレゼントなんて玩具業界の策略で。そういえばバレンタインもお菓子業界の策略だ。いや、今それを考えている場合じゃない。今のサンタは剣崎だ。剣崎からのプレゼントで、そのプレゼントはええっと。こんなに考えているのに何が欲しいか思い付かないなんて!

「ぜー…」

容赦なく剣崎が数え、0の数字を言い終える直前河井は立ち上がるかのように勢いよく閃いた。閃いたというより無理やりだ。

「じゃあ!ケーキ!ケーキ下さい!」

自分でも面白い答えに河井はひきつった笑いをするのだが、剣崎は溜まらず吹き出していた。





「ほらよ、くくっ」

河井が要求した通りケーキがやって来た。といっても夜だ。高級なケーキ店は完売して店は閉まっている。二人で買いに行って、仕方なく路上販売していたホールケーキを買った。剣崎は注文して届けさずと言っていたが、河井は拒否した。自分の発言が恥ずかしい。

「…どうも」

河井は鼻を赤くしてケーキの箱を剣崎から受け取る。

「なんでケーキだったんだよ?」

笑いを含んだ声で剣崎は聞いてくる。分かってるくせに。河井はキッと剣崎を睨み付けたがため息を吐いた。

「慌て言ったからですー」

拗ねた口調だ。剣崎はフッと小さく笑うと白い息が出た。夜道は寒い。町はさっきまでクリスマスの明かりで明るかった。しかし、今は街灯のほんのりとした明るさしかない。河井はぼんやりと思った。もうクリスマスは終わるのだ。手元にある白い箱の重みに河井は素直に嬉しくなった。

「プレゼントありがとうございました。来年はちゃんと考えておきますね」

河井は小さく微笑んだ。来年、という言葉に剣崎は満足げにする。すると剣崎は河井に手を差し出すと、河井は頬を赤くしながら手を繋いだ。手袋はしていないが、暖かさは十分だ。

「そういえば、剣崎は何が欲しいですか?」

河井は歩きながら機嫌良く聞いた。仕返しに同じことをしてやろうと思ったが、剣崎はこちらを向くとにやりと笑う。そっと河井の耳に剣崎は声を囁かせてこう言ったのだ。

「おめぇ」

一気に河井の顔は赤くなった。そのせいでぐしゃとケーキの箱が地面に落ちた。ケーキはものの見事崩れてしまったのである。











白の策略
















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ちょっとギャグっぽいけど、14歳っぽいなぁとか思ったり。メリークリスマス!
111225

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