甘い空気な文!

□橋の上での話
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(竜河竜)










「あー、チョキ出すんじゃなかった」

 目の前でチョキの形を作った手を見て竜児は溜め息をつけた。その溜め息は白くなってすぐに消えてしまった。反対の手には大きな袋が下がっている。中身はさっき駄菓子屋で買ってきた菓子やジュースだ。

「負けちゃいましたもんね」

竜児の横にいた河井も同じように袋を持っていた。二人はとぼとぼと春になりかけている寒空の下を歩いている。寒空といっても空は青と水色のコントラストを淡く浮かべている。暦は春を彷彿とさせたが、現実は冬を感じさせた。竜児は鼻を赤くしながら河井に振り向いた。

「見事に初戦敗退だったね」

「ですね」

歩いていた二人を待っていたのは橋だった。街灯がほの暗い橋を渡り出すと、冷たい風が二人を襲う。川の近くとあってか普通の路を歩いていた時より風は冷たい。竜児は立ち止まると腕同士を掴んだ。

「うわ、寒い」

がちがちと竜児は歯を噛み締める。こんな寒い思いをしてまで買い出しに行ったのは、寒いから外に出たくないという理由でお馴染みの四人でじゃんけん勝負をしたのだが竜児と河井は負けてしまった。じゃんけんに勝った石松と志那虎は暖かい合宿所で竜児らを待っているのであろう。そんな二人を想像して竜児は羨ましく思い空を見上げた。

「まだマシな寒さですよ」

寒さに堪える竜児と違って河井は余裕な笑みを浮かべている。竜児の横を爽快に横切った。そうかなぁ、と不満に思う竜児だが着いていこうと早歩きをし河井と並んだ。パタパタと竜児の赤いマフラーは揺れる。冷たい風の中、ふわりと河井は微笑んだ。

「僕の出身地はもっと寒いですからね」

「あ、そっか。どうしたら寒くならないかな?」

「うーん、慣れですかね」

「うわー…慣れるまで大変そうだなぁ」

横で河井はくすくす笑うので、竜児は頬を膨らませたがつられるように笑う。寒さに慣れるなんて気の遠くなる話だ。というより慣れれるのだろうか。竜児は手を擦った。手袋はしていない。外と中の気温差を侮っていた。すると擦っていた手に白い手が重なった。

「慣れずとも、もう少しで春です。我慢しましょう」

笑う河井からは白い息が上がった。周りは寒いというのに春を感じさせる雰囲気。ぼんやりと竜児は見つめてしまった。ひゅっ、とまた風が吹くと思わず手と手が握り合う。そうだね、と竜児は微笑んだ。

「でも、やっぱり寒いなぁ」

とん、と竜児は河井に寄りかかった。まるで磁石が引っ付きあったようにぴたりとくっついている。動くにも動き難い。河井は口を曲げ、半ば呆れた。

「…高嶺くん、これじゃあ歩けないですよ」

「俺は寒くて歩けないよ」

竜児は悪戯に笑った。河井に竜児を突き放す理由はさらさらない。河井は溜め息をつけたが、同じように寄りかかった。いくら寒さに慣れてるといっても暖かさには勝てない。竜児の柔らかい髪がこそばく感じる。合宿所から出る前に風呂に入ったところだ。(だから、余計外に出たくなかったのだが。)竜児の髪からシャンプーの香りがふわりと漂った。なぜだか河井は照れてしまった。こうして密着するなんて合宿所では出来ない。

「じゃんけんで…負けて良かったかも…」

ぽつりと河井が照れくさそうに言った。こうして竜児といれるとのもじゃんけんで負けたおかげだ。すると、勢いよく竜児は顔を上げた。頬を赤くして目を大きく開ける。それは感動を覚えたような顔だ。

「お、俺も思ってた!」

「わっ、高嶺くんっ!」

同じ事を考えていたことがよほど嬉しかったのだろう。竜児はおもいっきり河井に抱きついた。ぐらり、と二人は当然よろけてしまった。さて二人はいつになったら合宿所に戻れるのだろうか。











橋の上での話















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いちゃいちゃ。橋の上を自転車でこいでいた時に思いついた話です。
120317

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