春よ来いな文!

□ウェンディ
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(弱ぺだ/新→荒)










 たまに見せる子供っぽい靖友が可愛いと新開は思うことがある。その噂の靖友は新開の横を歩き、ひっきりなしにくしゃみを繰り返している。目も赤くてずっと手で掻いてばかりだ。鼻も赤く、例えるなら季節外れのトナカイに見える。それは可愛いな、と新開は靖友を見て思ったが口に出さずそっとポケットティッシュを渡す。先日駅前を歩いてたら貰ったティッシュだ。でかでかと出会い系の広告が載っているが気にしない。

「いる?」

「おせっかいだヨ、ブァッ…ぶぇっくしょん!」

咄嗟に靖友は新開のティッシュを手に取って、鼻をぐじぐしとかむ。言ってることとやってることが矛盾していて、新開はくすくすと笑う。いつもなら靖友がここで怒るが、今はそれどころじゃないらしい。靖友は息を荒くして頬を赤く染め上げていた。風邪ではないそうだ。花粉症という春に流行るそれである。

「あーもう無理!なんで花粉が舞うんだよっ、ボケナス!」

「それは木が降らせているからさ」

新開はそこにあった木を指差した。いつものあのポーズだ。木に狙い打ちをしてどうするんだと靖友は思ったが話のも面倒で言わなかった。

「うっせぇっ!ぶぁっくしゅっ!」

靖友の唾が飛び散る。新開は肩を落として、困ったように笑う。しかし靖友はそれきり何も言って来なかった。膝に手をついてぜぇぜぇと息をしている。ぽんぽんと新開は背を叩いてやる。その手を払う気力もないらしい。

「もう無理ィ、しぬ、部活行かねぇ」

ずずっと靖友は涙目になりながら細い目を閉じた。長い下睫毛が涙で濡れいる。珍しく弱気になっているではないか。獣と呼ばれる荒北靖友が春に舞う粉に負けている。新開もしゃがみこんでやると、ティッシュを何枚か持って靖友の鼻に当てる。

「ほら靖友。かみなよ?」

まるで子供の鼻をかんでやるようなやり方だ。すると、素直に鼻を小さくかんだではないか。子供みたいだと新開はにこりと微笑む。今度は新開の笑みを靖友は気付いていない。そのまま靖友は自分の手で押さえておもいっきり鼻をかんだ。

「まるでちっちゃい子だな、靖友」

新開は靖友を覗き込むように見る。目も泣いていて、鼻も頬も赤い。目なんて真っ赤でうさ吉みたいだ。とうとう新開は我慢出来ず。

「可愛い可愛い」

新開は厚い唇に笑みを作ると、靖友はいつもの歯茎が見えるぐらい口を開ける。

「ウッゼ!お前も花粉症になりやがれ!ックシュ!」

新開の目の前で、顔が赤い靖友はくしゃみをした。しかし、新開は笑みを絶やさない。本当に可愛いと思ったのだから仕方がない。

「どうした二人共」

そこで声が上から降ってきた。二人は顔を上げるとそこにはよく知った人物がいる。ずずっと靖友は鼻をかんでいた音を止めた。

「福ちゃ…ん…」

新開が咄嗟に見た靖友は本当に子供みたいだった。迷子になった子供が親を見つけた時の顔だ。目を赤くして、鼻も赤くして嬉しそうに頬を赤くする靖友。可愛いな、と新開は思ったが何も言えなかった。ここで改めて靖友は子供じゃないんだと思い知らされてしまった。

「顔が赤いな」

福富は相変わらずの無表情だ。靖友は立ち上がると、歯をニッと見せ笑う。

「花粉症だよ。ほんとありえなくナァイ!?ぶぇっくしょん!」

靖友は手で口と鼻を隠す。福富に唾はかからなかった。ただ靖友は動きを止める。きっと手に唾が付着したのだろう。新開はその様子を見てすっと立ち上がると、ティッシュを差し出す。

「ほら靖友。お手々出して?」

「ガキじゃねぇ!」

靖友は顔を赤くして恥ずかしがっている。今頃になって鼻をかんでもらったのが恥ずかしいのもあるのだが、新開はわかっている。福富が前にいるからもあるのだと。「ほらほら」と新開はティッシュを渡そうとするが靖友は「いらねぇ!」と福富の回りを口元を手で隠しながら走る。新開が靖友を追いかけている形にいつの間にかなっていた。すると、真ん中にいる福富は小さく笑う。二人はそんな福富を見て立ち止まった。靖友はますます顔を赤くする。

「寿一、靖友の鼻見てあげなよ?」

「し、新開!てっめぇっ!このボケナスッ!」

今度は靖友が新開を追い掛ける形となった。福富は二人を目で追い小さな子供みたいだと微笑むと、新開も同じことを思って小さく笑った。











空を飛べないウェンディ















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新→荒→福がだいすきです…っ。荒北くんは何しても可愛い(結論)。
111004

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