春よ来いな文!

□五月病
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(GW/1×2 戦後の話) 





 デュオはよく寝るやつだと思うようになったのはヒイロがデュオと一緒に暮らしてから一ヶ月が経った頃だった。そもそもその一ヶ月、デュオは夜は遊びに行き、昼は仕事で寝ている姿が珍しいほどだった。休みもほとんど遊びに使っている。なにかとデュオは忙しかったのだ。しかし、ここ最近デュオは寝ていることが多くなった。夕食を食べるとすぐに布団に入り眠る。朝はかろうじて起き上がるがすっきりした目覚めではなかった。トーストを食べながらデュオは眠そうな目でヒイロを見た。ヒイロもこれから仕事はあるが朝も目覚めよく起きているので仕度は整っている。

「ヒイロ、聞いてくれよ、最近眠くて眠くて仕方がないんだ」

「ああ、知っている」

「俺このまま起きれないんじゃないかって不安になるんだ、なあヒイロ、どうしよう。なにもかもめんどくさいんだ、仕事もやめたい、仕事仲間にも会いたくない」

大きな瞳を揺らした。ヒイロは飲んでいたコーヒーを置いた。デュオがそんなことを言ったのは初めてだった。何事にも前向きに、チャレンジ精神溢れていたというのにこの落胆ぶりはなんだろうか。ヒイロはこれは鬱じゃないかと考えていた。医学書で読んだことがあった。

「ヒイロ、ヒイロ、ごめんな、同棲してんのに、ごめんな」

壊れたかのようにつぶやくデュオ。ヒイロは真っ直ぐにデュオを見た。

「…お前は今鬱になってるんだ、休めば治る」

「夜帰るの遅くてごめん、お前いつも起きて俺を待ってるもん、ごめんな」

ヒイロは何も言わなかった。夜が遅いのは知っている。なんたってデュオは職場でも人気者だ。遊びに誘われても断るわけがない。ヒイロも仕事帰りは遅いがデュオほどでもなかった。一緒に暮らしているはずなのに会う時間は限られていた。ヒイロはデュオに多少不満はあったが、それほどのものでもなかった。二人は必ず会話をするし、夜はセックスだってする。デュオの首元にはヒイロがつけた赤い痕もあった。
なのにデュオは声を震わせている。空いている手でデュオはヒイロの手を握ってきた。

「ヒイロ、俺、怖い、お前がいなくなって起こしてくれる人がいなくなったら俺は。ああ、ヒイロ、どうしよう。俺は一人で生きられなくなった、お前のせいだ、どうすればいいんだ、ヒイロ、ごめん、ごめんな」

ぼろりと大粒の涙がデュオの頬をつたう。ぐしゃりと泣きじゃくる姿はまさに子供だ。幼さが残るせいかより一層ヒイロの目にはそう見えた。

「デュオ」

テーブル越しにヒイロはデュオを抱き締めた。その衝撃でコーヒーが入ったマグカップが転がった。コーヒーはテーブルにこぼれたがヒイロは気にしない。

「俺はお前が帰って来ないんじゃないかって不安なんだ、だから寝ずに待っているんだ。デュオが目を覚まさない時は俺が必ず起こす、俺もお前が起きてくれないと怖いんだ」

感情がある声だとヒイロは我ながらに思った。ヒイロもデュオと同じ気持ちなのだ。この幸せが不安で仕方がなかった。一緒に暮らそうと言い出したのはヒイロからだった。「いいぜ」とデュオは心から喜んだ。明るい未来が待っている、だなんてどこかのキャッチセールスを彷彿とさせたが二人はまさにそんな未来を描いていた。なのに今はどうだろう。デュオは戸惑いながらも自分らしく生活を送って、ヒイロは気持ちを隠して生活を送っていた。平穏な生活に二人は馴染めていなかったのだ。それがとうとう綻びた。だが、それで良かったのかもしれない。

「俺もお前がいないと生きていけない」

ヒイロはずっと言いたかったことを告白した。もう後戻りなんてしたくない。離したくない。抱き締めていた腕がより強くデュオを抱き締めた。デュオは肩に顔を埋めて、ぐすんと鼻を鳴らした。戦争でしか生きたことがなかった、平穏な生活に恐怖していた。普通がわからなかった。しかし、ようやくデュオは平穏も良いかもしれないと微笑むのだ。気持ちが落ち着いていくのがわかった。ヒイロの耳元にデュオは唇をよせて呟いた。


「しあわせだなぁ」










さようなら
五月病

















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たった二日で書きました。五月病は新しい生活とか職場になるとなるそうで。暗いデュオになってしまった…でも病んでるのも好きです。すみません!
100519

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