青い春な文!
□オブラート
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「綺麗な手だね」
河井が「ここのお店人気なんですよ」と雑誌に指を差すと横にいた竜児が思いがけない言葉を言った。おかげさまで河井は店の話などぶっ飛んでしまった。河井は咄嗟に雑誌に置いてあった指を引っ込める。この発言は普段の河井なら気にすることだ。女みたいだ、と思って言ったことなのか。ただ相手は竜児で、指の話だ。別に女みたいだ、と言ったわけではない。手を引っ込めた理由は他にあった。
「あ、ありがとうございます…」
少し申し訳ない顔をしたが素直に河井は述べた。竜児はその様子に気付いていないのか、いつもみたく微笑んでいる。つられるように河井自身も頬が緩んでしまった。
「嬉しいです」
頬を赤らめた。本当に嬉しかったのだ。手はボクシングをするのもピアノもするのも一番気を使っていて、大事にしている。手を引っ込めた理由はどきり、と胸が高鳴ったからだ。それで思わず手を引っ込めてしまったのだ。竜児は素直だ。竜児は照れもせず、こちらが照れるような言葉を言っては顔をいつも熱くさせる。
「河井さん手合わせていい?」
「え、えぇ」
ほらまたそうだ、と河井は戸惑いながらも手を出す。竜児の暖かい手が河井の手と重なる。
「あ、俺より指長いね」
「ふふふっ、僕の自慢の指ですから」
河井の手は竜児よりも大きく、長さも河井が勝っていた。竜児は河井の手はもっと細く小さい手かと思っていたのだ実物は違う。しかし、綺麗なのはかわりなかった。二人の指が絡み合う。こそばゆい感覚だが、どこか安心感を覚える。
「なんだか覆いつくされそうだね」
「僕は…高嶺くんに覆われてますよ」
「…?俺河井さんより手小さいよ?」
「ふふふっそういう意味じゃないんですよ」
笑って誤魔化した。この心は決して言えるものじゃない。竜児の笑顔も優しさも河井だけのものじゃない。そうだ、この感情は錯覚だ。覆われているものを突き破ることない。きょとん、としていた竜児だったが河井の手を両手で握ると微笑んだ。
「俺、河井さんの手好きだよ。強くてとても綺麗だから」
河井の形の良い眉は眉間に皺を寄せる。顔は熱いのは変わりないが赤さは増すばかり。放したくない、その感情が自然と手に力を入る。あどけない表情で竜児は俯いている河井を見た。
「河井さん?」
ああ、このまま手と手が溶け合えばいいのに。この褒められた自分の手がひどく羨ましかった。
オブラートが溶け出した
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片想いしてる話が書きたくなったので。本当にピアニストの手は大きいらしいですね。
110204