青い春な文!
□いつものこと
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彼は何から何まで突然である。合宿所にも突然やってくるわ、突然居なくなったりするわで、でもそれが剣崎である。いつしか周りの人間もそれが徐々に普通となった。いつものことだ、と認識しているのだ。ただ一つ。
「キスしたくなった」
その理由で突然合宿所に訪問してくる剣崎に河井は悩めるばかりである。
「いつでも出来るでしょうに」
「いや、今がいいんだよ」
ぬめりとした感触が口を襲う。唇が熱い。あまじんて受ける河井だが、否定する理由はない。本当に突然で、隙あらば剣崎はキスをしてくる。すれ違う際もふと目が合う時でさえしてくるのだ。一番困るのは皆がいるというのにキスをしてくることだ。もちろん隠れて見えない位置なのだが、その時の緊張感はヒヤヒヤとさせられるばかりである。
顔を離すとニヤリと笑う剣崎に河井はごちっと額をぶつけ合った。一種の照れ隠しである。河井は目を合わせず横を見るしかなかった。
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「そういえば、最近剣崎来てませんね」
ふとリビングで竜児らが休憩している中、河井が言い出した。竜児や志那虎が河井に振り向く中、石松だけはソファーの上で寝転びテレビに釘付けである。テレビは野球を放送している。
「いつものこったろ?」
と石松がテレビに目線を合わせたまま答えた。それから志那虎も竜児も口々に話しをし出した。
「だが、最近来ていないな」
「そうだね」
そんな噂をした矢先になんとドアから剣崎が現れたのだ。これには全員が驚いた。『噂をすれば』とはこのことである。凝視される剣崎は変な違和感を持ち、眉毛に皺を寄せた。それに気が付いた竜児がなんでもないよ、と笑って見せる。
「サボってねぇか見に来たが…、フッ寛いでていいのかよ?」
「うるへー!朝から晩までトレーニングしてらあ!」
ソファーの上で立ち上がり石松は怒ったが、相変わらず剣崎は鼻で笑う。その様子を竜児と志那虎は見て笑っていたが、河井だけ剣崎をじっと見ていた。胸が高鳴るのだ。自然に胸へ手を置いていた。見ていたせいか剣崎が河井の視線に気付く。胸は先ほど以上に高鳴りをし出した。こちらに剣崎が近付いてくる。ぎゅっと目を瞑ったが、何も起こらなかった。剣崎は河井の横を素通りして竜児ら三人が座るソファーの元へと行ったのだ。咄嗟に河井は唇を触った。
「(僕は何を期待していたんだ…!)」
カァッと顔中に熱が高まる。突然キスをしてくることがいつの間にか普段になっていた。その事実を今思い知らされた。それも自らが望んでいただなんて。そんな河井の心中も知らず剣崎は竜児らと話しをしている。
「それにしても剣崎久しぶりだね」
「フッ俺はおめぇらみたいに暇がねぇんだよ」
「へーへーそうかよー、おっ!」
ソファーに寝転がっていた石松が飛び起きた。テレビで中継している野球に石松はガッツポーズをする。ワァーワァーと観客の声がよくテレビから聞こえた。剣崎もテレビに視線を移していたが、ふと服の裾を引っ張られた。
「剣、崎」
河井が剣崎の後ろで小さく呟いた。剣崎はくるりと振り向いた。
「なんだ…よ…」
途中で唇によって言葉は遮られた。竜児らはテレビに夢中で気が付いていない。あっという間に剣崎から離れたが河井は照れくさそうに、だが満足しているそんな困った表情をする。
「久しぶりですよね」
その突如剣崎は河井の手首を掴んだ。力強く引っ張り、勢いのまま二人はリビングを後にしたのだ。まさに一瞬の出来事に三人は口を開けた。
「な、なんだあ?」
「さ…さあ…?」
石松と竜児は顔を見合わせた。
三人が後を追わなかったことをいいことに、廊下で剣崎は河井にキスをした。触れ合うようなものではなく、かじりつくようなキスだ。何度も何度もそれは繰り返され、息が上がるまで続けた。息を整えるため一旦唇を離す。それから軽いキスを額にして満足げに剣崎は笑った。
「おめぇにしては可愛いことするじゃねぇか」
恥ずかしさが勝ってしまい河井は何も言い出せなくなってしまった。
「ただあれだけじゃああ足りねぇよ」
相変わらず余裕を見せるその顔に河井は強気に目を合わせる。
「じゃあ…もっとしてくださいよ」
剣崎の目は僅かながら見開いた。こんなことを言うとは珍しい。
「フッ、バーカ。言われなくてもしてやらぁ」
そうしてまたキスをした。いつものキスなのだが二人にとっては特別なことなのである。
いつものことだけれども
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いちゃいちゃさせました、この二人はアダルティ…!
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