青い春な文!

□ボイス
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※『恋する少女』の4話目。痴/漢の話です、苦手な方はご注意を。











 初めて、と言っては違うが竜児は女の子扱いを受けた。ただそれは電車の中ので、竜児は今尻を触られている。率直に言うと痴漢である。竜児は最初勘違いかと思っていたが、確実に痴漢をされていることに気が付いた。普段、友達にふざけて尻を叩かれたことは何度もあるが今回のは触り方は気持ち悪さがあった。竜児は口をつぐんだ。手は汗ばんできている。

「(がまん、がまん)」

 今日は待ちに待った日曜日で、彼氏である河井と待ち合わせをしてデートに行くのだ。いつも会っているのに、この日は特別に思え楽しみだった。行き先は映画と買い物である。よく竜児の友達らが話すデートスポットだ。姉の菊から可愛いスカートを借りて初めてお洒落をして、いつもは濡れた髪をほったらかしにしていたがドライヤーで櫛を使って乾かした。珍しい珍しいと菊がはやし立てたが、頑張れと背中を押してくれた。歩いて駅に向かう間、胸をドキドキワクワクさせた。いつもは汚れたシューズをはいてたが今回は菊から借りたパンプスだ。慣れないパンプスだったが今の竜児には平気だった。そして胸を踊らせながら電車に乗って待ち合わせ場所へ行こうというのに、今はどうだろうか。怖い、助けて、しか頭の中にない。すべての神経は後ろにしかない。声を出したくても出ない。よくテレビで痴漢に合った人の話を見て竜児はそんなのすぐに言って捕まえればいいのに、と思っていたが自分自身に起こったこの出来事は本当に言えないんだと理解した。まるで体が緊張で硬直してしまったようだ。

「(河井さん、河井さん、河井さん)」

会いたい人の顔が頭を渦巻く。だが、あっさりと消される。これが何回も繰り返させる。もうひとつ違う電車に乗れば良かったとか、降りたあとどんな顔をして河井と会えばいいのとか、電車はさっき乗ったばかりだからすぐに降りられないとか、普通電車に乗れば良かったとか、竜児の頭はたくさんの思考が渦巻いた。つぐんでいた唇はほどけ、泣き出しそうになった。その時だ。

「この人痴漢です」

その一声に一気に電車内はざわめいた。竜児を触っていた手が放れる。すると、竜児の肩を誰かが掴んだ。驚いた竜児だったが、そのまま体こど力強く引かれ着いた場所は誰かの胸だった。竜児は顔を上げた。そこにはよく知る人物、いや、今から会う人がいた。

「河井、さん」

竜児は大きく目を見開いた。あの一声は河井だったのだ。河井は男を睨んでいる。竜児を抱き寄せた手とは反対の手には痴漢をした男の手首を捻って掴んでいる。

「次にまた同じことをしてみろ、ただじゃおかない」

河井が低い声で言い放った。竜児は初めて聞くその声にますます驚いた。河井は掴んでいた腕にまた捻りを強くすると相手は苦痛を含んだ表情をする。観念した男を見て腕を放すと河井は竜児を抱き寄せたまま頭を下げつつ、人を掻き分けて行く。遠ざかってもさっきいた場所はまだざわめいていた。他の乗客らが人を呼び、男を拘束してくれているのだ。竜児らはそんなことを知らぬまま別の車両へと移った。あっという間の出来事であった。
 二人はドアの近くに凭れるとさっきまで怖い表情をしていた河井が一息ついた。それからやっと竜児を見たのだ。怖い表情はなかったが河井は眉毛を下げ心配している。竜児はまだ呆然としていたが口を開けた。

「なんで…河井さんがここに?」

すると河井が竜児の手を握った。その手は僅かながら震えていた。

「本当は違う車両に乗っていたんですが、その…君の声が聞こえたような気がして」

その言葉を聞いて竜児は一気に顔が熱くなった。特に目元なんて熱のせいで参ったかのように感じる。

「ごめん、高嶺くん。早く助けてあげられなくて」

なぜ河井が申し訳なさそうに謝るのか竜児にはわからなかった。咄嗟に返事が出来ず竜児はぶんぶんと勢いよく右往左往に顔を振う。

「なんで謝るの?俺すごく嬉し、かった」

ずずっと鼻が鳴る。とうとう竜児は泣いてしまった。河井は戸惑っている。なんたってここは電車の中だ。そういえば告白された時も泣いてしまった。でも今回泣いた理由は河井が来てくれて嬉しかったからだ。心の中で何度も思い浮かべた人が来てくれた。助けてくれた。

「ありがとうっ河井さん、ありがとう」

うわんうわんと竜児は声を上げて泣いている。河井は顔を赤くしていた。もう一度言うがここは電車の中である。周りの視線が二人に注目するばかりだ。そのことで河井は戸惑っていたが、竜児の泣き顔を見て河井は優しく微笑んだ。

「もう大丈夫ですからね」

落ち着かせるように河井は周りの視線をそっちのけにして竜児を抱き締めた。

 駅に着くと河井は竜児の手を繋いで電車から降りた。向こうの車両が騒がしかったがそんなことを気にせず、早々とその場を去って行った。河井は帰らないかと竜児のために提案したが、散々な目に合っても今日は待ちに待ったデートだ。竜児はこのまま映画に行こうと提案した。二人は映画館に向かう。スカートはもうこりごりだと竜児は思ったが、河井が「今日の服装可愛いですね」と言ったので竜児は顔を赤くしながら困ってしまった。










私のボイスヒーロー












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ちかんの話ですみません。それも連載なのに半年経っての更新ですみません!
なんで家から二人一緒に行ってないんだよ、と思われると思いますが河井さんは用事があってそれで映画館で待ち合わせだったんですよ!はい、ご都合です。竜ちゃんの女の子らしさが書けて満足しております!
110427

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