青い春な文!

□灰色の景色
1ページ/1ページ

※2で大人になった河井さんの過去独白話。河井さんがバツイチ設定です。とてつもなく暗い話です。そんな設定は嫌という方は"戻る"をお願いします。
















 ポケットに一箱。タバコが入っている。決して河井は人前では吸わない。吸っても一週間に一箱消費もしない。思い出したかのように吸うのだ。吸ったのは大学生になってからだった。音楽のサークルに入った河井はやはり目立つ方だった。そのおかげか友人関係は多い方でよく飲み会に誘われたものだ。そこで初めてタバコを進められ酒の入った勢いで吸ってみたら、大きな咳が出た。友人たちは大声を出し笑い、河井はむせたが維持でタバコを一本吸ってやった。それからというものたまに吸うようになった。健康に気を使っていたはずだったが今はそんな気遣いをしてない。健康に良いからと言って幼い頃少量のワインを飲んだことはあるが、今は大量にワインは飲むし酒も飲む。酒は美味しいがタバコは美味しいかと聞かれれば、わからないの一言につきた。一時期全く吸わない時期があった。それは結婚したからだ。相手は同じ大学でオペラ歌手希望の女性だ。喉を潰さないようにと河井はタバコを吸わなかった。というより捨てたのである。彼女はプライドが高く河井とよく意見をぶつけ合った仲だ。音楽に対する情熱に二人は惹かれあってか、いつの間にか結婚することになった。これは音楽界では小さなニュースで、音楽雑誌に小さく取り上げられることになった。有名な二人だ。インタビューにも答えたことがある。結婚後は外国に住むとか、音楽活動はしていくとか。最後に彼女を愛し続けますか、というベタな質問に河井は「はい」と答えたが三年後嘘になってしまった。これもベタな別れ方で、忙しさの中ですれ違いが起きたからだった。河井は実家に帰ることになり、彼女は一緒に暮らしてきた細長い家に残ることになった。彼女は泣いていたが最後は笑ってくれた。あんなに喧嘩した仲なのに、さっぱりとした別れ方だった。共通点の音楽がなければまだ一緒に…、なんて考えることもあったが胸の内に仕舞い河井は去った。やはり河井も彼女も一生音楽と付き合うのだ。誰かが河井の恋人はピアノだと言っていたが、強ち間違ってはいなかった。

 実家は貴子と響が出迎えてくれた。貴子の夫は四年前に他界している。心臓病だった。とても優しい人だった。響にその優しい面影があって河井は懐かしく思う。響と一緒に外を歩けばお父さんかと聞かれることがあった。姉の子供だから弟の自分と多少似ているかもしれないが、河井は自分と似ているなんて思ったことがない。やはり姉さんとその夫の子供だ。二人に愛されて生まれてきた響なのだ。そういえば河井は離婚した彼女と子供の話をしたことがあまりなかった。借りた家も子供部屋のことを考えず、音楽が出来るか出来ないかで選考したものだ。響と遊んでいて子供も良いなと思ったが河井はもう結婚をしないと心の奥底で決めていた。別れた彼女のことを本当に愛していた。彼女以上の女性はもう巡り会えないであろう、彼女が本当に好きだった。響が嬉しそうにしながら「おじさんはずっとこの家にいてくれるの?」と聞いてくれたが河井は「おじさんは外国に戻って音楽をするんだよ」と残念そうにしながら答えた。きっともう日本には戻らないかもしれない。河井はそのことを言おうとしたが、言わない代わりに響の頭を撫でた。

 実家に戻ってからというもの何もかも懐かしかった。高校を出てからは大学に通うため実家を離れ一人暮らしだった。久しぶりに訪れた部屋は物はあまりないがそのままだ。音楽関係はすべて持って行ったのだが、ボクシング関係はすべてこの部屋に置いてきた。ボクシンググローブも置いてある。そこでようやく河井はボクシングをやっていたんだと振り返った。そんなことをいままで微塵も思い出せなかった。多少ホコリを被ったグローブを触る。あの頃は本当に良かった、河井は笑っていいのか哀しんでいいのかわからない表情を浮かべる。ボクシングは青春のすべてだった。美化し過ぎと言われるかもしれないがあの頃の思い出は本当に輝いている。思い出に浸る河井は歳を取ったなと実感する。外国に行く際、今度はボクシング関係のものをすべて持っていこう。河井はホコリを掃ってからグローブを元の場所に置いた。部屋の窓を開ければそこには変わらない景色があった。そこでようやく河井はタバコを吸いたいと思った。ズボンに一箱入っている。実家に戻る前に購入したものだ。慣れた手付きでタバコを吸う。もう大人なんだ、青春には戻れない。目の前が煙に覆われる。吸い始めて初めて河井はタバコを美味しいと感じたが、虚しく思った。










灰色の景色
















--------------
河井さんがバツイチいいんじゃないかな、と妄想した結果です。大人になってからいろいろあるよ!っていう話。
110503

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ