青い春な文!

□ワンシーン
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(thanks 6 year!企画小説)









「チケット2枚下さい。」

 河井がそう言うと、女性店員はほんのりと顔を赤くしながら丁寧な接客をしてくれた。竜児と河井は映画館に着き、チケットを購入して中へと入った。広い映画館で座席は半分ほど埋まっている。後ろの方の座席を取った竜児と河井は向かうと座席に座った。映画が始まるまで数分ある。

「この間ね、クラスでうるおぼえ大会したんだ。お題出してノートに絵を描くんだよ。」

竜児が唐突に話題を切り出した。先日クラスで流行った遊びだ。出されたお題に記憶の中から絵を描くのだ。それが下手だったり、上手かったり、間違っていたりして皆は笑う。

「何のお題だったんですか?」

「えっと、ドラゴンボールとかキン肉マンとか描いてね、みんな微妙に似てなくて、でも微妙に似ていて大笑いだったんだ。」

「それは面白いですね。」

二人はくすくすと笑った。ただ二人が笑った意味は違う。竜児は思い出し笑いを、河井はその風景を想像して竜児につられて笑う。実は河井は竜児が言った漫画の二作品を知らない。タイトルは知っているがほとんど知らないに近かった。
二人は幼なじみだが竜児と河井は趣味が合っていなかったりする。音楽は竜児はJPOPが好きで、河井はクラシックが好きである。竜児は漫画好きだが河井は活字の本を好み、外でスポーツをする竜児に対し河井は家でピアノを弾くか本を読むことが多い。今回見る映画もどちらかといえば竜児が好むものだ。少女漫画を原作とした恋愛映画で、その漫画を読んでいた竜児が行きたいと言って河井が一緒に行きませんかと誘ってくれたのだった。竜児はこのての映画を河井が見ないことを知っている。河井は洋画のサスペンスものが好きだ。

「ごめんね河井さん。俺が見たい映画に付き合って貰っちゃって」

「いえ、いいんですよ。高嶺くんが見たいと仰ったので、僕も興味を持てたんです。それに、」

言葉を続けようとしたその時に辺りが暗くなり、ブザーが鳴り始めた。映画が始まるのだ。またあとで、と河井は微笑んだ。竜児も頷く。徐々に静かになり宣伝も終えた所で本編の映画が始まった。
映画は主人公の少女と片思いをしている少年の話だ。竜児はリアクションが多い。驚いたり感動したりと顔が忙しい。逆に河井は大人しかった。映画の中盤辺りだ。主人公と少年の二人が電車に乗る。少年が主人公の肩に眠り、主人公は照れながらも寄り添うシーンだ。原作の漫画でもあったシーンで竜児はどきどきした。その時、とん、竜児の肩に重みがかかった。肩を跳ねさせ驚いたが、これはまさに映画と同じ場面ではないか。まさか、と横目でゆっくりと見ればやはりそうで河井は居眠りをしている。映画と同じことになっているのだが、違うことと言えば竜児は映画処じゃなくなり、内心慌てていた。

「(ど、どうしよう…!と、とりあえず動かしちゃだめだ!)」

決めると竜児は前を向いて映画に集中しようとするが、やはり横が気になって仕方がない。竜児は映画そっちのけで河井を見つめた。

「(やっぱり河井さんにとって興味ない映画だったかな…)」

この映画も河井は行く前タイトルしか知らないと言っていたぐらいだ。

「(でも、いつも俺がどんなにくだらないこと話しても、どんな悩みでも聞いてくれるんだよね)」

昔からそうだ。テレビの話、学校の話、家族の話、悲しかった話、楽しかった話。いつも河井は真剣に聞いてくれて覚えていてくれている。

「(俺も河井さんの難しい話とかわかんないことがあるけど…」

楽しそうに話してくれる河井の姿が浮かぶ。一緒にいてくれる当たり前のことが幸せだなぁと竜児は感じている。竜児は河井の手に自分の手をそっと添える。照れくささもあるが竜児は映画のワンシーンみたく寄り添った。





「河井さん寝てたでしょ?」

映画が終わったあとだ。竜児は後ろで両手を絡めながら聞いた。河井は目だけが驚いている。

「え?あ、いえ、その…」

「やっぱり映画つまんなかったよね。俺だけが見たい映画だったから…」

後ろで絡めていた両手を前にしてまた絡める。自分だけが映画を楽しんでしまったことが悪いと思っているのだ。

「高嶺くん…」

心配した河井だが、竜児の両手を優しく握る。話の続きになりますが、と河井は映画が始まる直前のことを話し出した。

「趣味を共有したりすることは良いことです。それに僕は高嶺くんと一緒にいるだけで嬉しいし、話すだけで楽しいんですよ」

あ、と竜児は気付く。どんなに趣味が合わなくても、歳が違うくても、それらは関係ないのだ。大事なのはその人といてどうなのか。河井が考えていたことは竜児と同じだ。竜児は目線を繋いでいる両手から河井と顔を合わせて嬉しそうに微笑んだ。明るくなった竜児に河井も自然と笑みを浮かべる。

「今度は河井さんの見たい映画行きたいな。」

「ええ、もちろん誘いますよ。」

「あ!でも俺は寝ないからね!」

勝負するような感覚で竜児は大きく頷く。自信がある。しかし、河井は首を傾げた。

「え?僕起きてましたよ。」

そこで河井は証明するかのように映画のあらすじから終わりまでを軽く話した。竜児はその通りだと驚く。寝てたはずのシーンまで話したのだ。細かい話まで出てくる。では、どういうことか。

「高嶺くんが手を添えてくれたのも、寄り添ってくれたのも僕は知ってますよ。映画面白かったですね。」

ふふっと河井は微笑んだ。実は河井は起きていた。映画のシーンを真似したのだ。竜児は両肩を上げ顔を真っ赤にして驚いている。この熱はどうすればいいのか。とりあえず発散させなければいけない。

「もう河井さんっ!」

竜児は映画館で大きめの声を出した。











ワンシーン













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らぶらぶー!なんかもうすみません。映画館ネタが好きなのは私が映画館大好きだからです。共通の趣味がなくても友達できるね、ぽぽぽーんって話でした。デート話が書けてとても満足しております。

リクエストありがとうございました!
いつか様に捧げます!
110520

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