青い春な文!

□計画的に
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(thanks 6 year!企画小説)











リップクリームがあればきっとこんなことにはならなかったのに。

 かさり、とした唇を河井は触った。リップを塗るのを忘れてしまっていた。ほったらかしにしていれば、もっと荒れてしまうことを河井は知っている。経験談だ。切れてしまって血が滲んでしまう。戦いの中で口を噛んだりして血を出すこともあるが、日常ではついつい気にしてしまう。指で唇を触って多少荒いのがわかった。

「(やだなー…)」

リップは持っていた。ただ今朝塗っている所を石松に目撃され、取り上げられた。石松曰く「んな女々しいもん塗るんじゃねぇ!」である。河井も河井でその言葉に怒っては「もう塗りませんよ!」と言ってしまった。相変わらず自分は女々しいや男女という単語には敏感である。

「(リップぐらいいいじゃないか)」

河井は溜め息を吐いた。いまから買いに行こうかと椅子から立ち上がる。と、そこでドアを開ければちょうど剣崎が立っていた。

「うわ、びっくりした」

思わず声を上げる。

「フッそれはこっちの台詞だ」

相変わらずの余裕の笑みを剣崎は浮かべている。何をしてもやはり二枚目であり、河井はほんの少し口をつぐんで目をそむけた。そうなってしまうのは河井が剣崎のこと見るとなぜかなってしまうのだ。それに鼓動はひとつ高くなる。

「どうした?」

動かない河井に剣崎は顔を覗き込んできた。驚いて後退りしてまった。

「いえ、なにも」

慌てて手を振って何もないとアピールをする。しかし、剣崎の歪めた眉毛は元に戻らない。咄嗟に河井は唇を触った。やっぱりかさついている。

「なんだ、キスして欲しいのかよ?」

「え?」

顎を掴まれ、なんと剣崎はキスをしたのだ。かさついた唇が薄い唇に当たる。言っておくが河井と剣崎は付き合ってもないし、キスだって今日が初めてだ。河井は息を吸うのさえ忘れてしまい、目を見開いた。あまりにも突然すぎた。顔を離すと剣崎は首を傾げた。

「かっさかさだな」

そう言われて河井は剣崎を拳で殴った。





 晩御飯が終わった合宿所のリビングではいつもと違った空気が漂っている。竜児・志那虎・石松の三人はこそこそと話をする。原因は河井で、なんとソファーの上でクッションに顔を埋めて寝転んでいるではないか。いつもなら石松がそれをして河井がだらしないと怒っていたのだが怒る本人がしている。原因はなんだろうかと三人は考える。一人石松は閃いたかのように、両手を叩いた。リップ取ったからだ、と思い出す。そんな馬鹿なと竜児も志那虎も思ったが、石松はそんなわけないかと笑う。実は当たっていたりする。リップがあればきっとこんなことにはならなかったのに、と河井は思う。リップがなかったから唇を触ってそしたら剣崎から…。河井は思い出したくもないとかぶりを振った。あのあと殴って立ち去ってしまった。殴り逃げだ。ぎゅっと殴った拳を握る。「河井さん何かあった?大丈夫?」「河井ー悩み事でもあんのか?」「体調が悪いなら言うんだぞ?」心配してくれている三人の声が頭の上から降ってきた。河井は珍しく敬語ではなく、「うん」とクッションに顔を埋めたまま返事をする。これはますますおかしいと竜児たちは思う。河井は三人の気持ちは嬉しいのだが相談出来ない話だ。

「大丈夫です、先に部屋に戻っていてください。あとで行きます」

そうして河井はリビングで一人になった。電気は消して貰ったのだが、誰かが入ってきた。電気は消しままだ。近づいてくるこの足音は誰だかわかる。だから河井は顔を上げなかった。

「何しょげてんだ」

原因の剣崎がすぐ側までやって来たが河井は黙っている。身動きひとつしない。剣崎はこういう場面が嫌いだ。自分を無視することが許せないのだ。

「おい、返事をしろよ」

苛立ってきている声だ。それでも河井は返事をしない。すると、剣崎はさっきよりも苛立った声で「おいっ」と声をかける。するとゆっくりと河井は顔を上げた。剣崎は河井の顔を見て目を見開いて驚いた。鼻を赤くして、目も赤くして、悔しそうに歯をくいしばっている顔だった。剣崎も殴られた頬は赤い。河井は鼻を啜った。

「なぜ、キスなんか、したのですか?」

鼻声だ。いまにも目尻の涙が零れそうである。訴える瞳を河井は剣崎に向ける。

「付き合ってもないのに、キスするなんて最低ですよ」

また鼻を啜った。目元も痛いし、心も痛かった。

「そんなことで鼻赤くしてんのかよ」

「当たり前ですよぅ、あんなに軽く、遊びみたいに」

河井は片手で涙が零れそうな目を抑えた。それでも止まらない。嗚咽が出そうだ。その代わりに訴える大きな声は出てきた。

「でも好きですよあなたが!僕の気持ちも知らないでするから!」

キスは決して嫌ではなかった。むしろ河井はあの時嬉しさがあった。それなのに想いも通じていないのにキスされたのだ。告白も受けてないし、キスの同意もない。剣崎がなぜ自分にあんなにあっさりとキスをしたのかがわからない。河井は悔しくて、剣崎を殴った。殴ったあとに気がついた。剣崎が好きだと。しかし、自分でふったも同然だ。涙が止まらない。すると、そっと河井の目元の涙を剣崎は親指で拭き取った。

「そりゃあ悪かったな。喜ぶかと思ってた」

ぱたりと河井の涙は剣崎の発言で止まってしまった。

「何言ってんですか」

「フッ、あん時からおめぇは俺が好きだってことわかってたんだよ。天才にはわかる」

この人は何を言っているのか。しかし、剣崎が言っていることは真実だ。好きだからキスをされて嬉しかった。想いが通じていないのにキスされたのが哀しかった。

「フッ、だいたい好きでもないやつにキスなんてするわけねぇよ。殴られるとは思わなかったがな」

剣崎は殴られた頬を触ったが口元は相変わらず余裕の笑みだ。だから、そんな簡単に好きだと言わないで欲しい。それでも河井の頬は赤く染まるのだ。急にキスする人物だが、そんな彼が好きだ。河井は深呼吸すると肩を下げた。泣いたのも馬鹿らしくなった。

「順序」

「ん?」

一言。河井はクッションを抱き締め、眉間に皺を寄せ上目遣いで剣崎を睨んでいる。剣崎は黙ったままで、少し考えたあと頬をかいた。それからしゃがみこむと目線を合わせる。

「おめぇが好きだ、だから付き合え」

真剣な顔だ。だが、少し照れているのか目がこっちを見たり横を見たりしている。

「付き合えってなんですか、ふふっ」

ようやく河井に笑みが戻った。

「おめぇはマニュアル人間かよ」

「ちゃんとお付き合いの順序は踏んでほしいものですよ」

「で、答えは?」

剣崎の真剣な眼差しに河井は口元に笑みを浮かべた。





「あっ!河井さんもう大丈夫?」

部屋に戻った河井は待っていてくれた竜児らに頭を下げた。理由は言わなかったが解決したとは伝えた。出迎えてくれた石松に河井は唇を触りながらこう言った。

「リップを没収してくれてありがとうございました」

上機嫌だ。いままでに見たことないほど嬉しそうにしている。石松も竜児も志那虎も同時に首を傾げるしかなかった。












ご恋愛は計画的に
















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告白テーマにしましたが、ちゃんとなってますかね!実は両想いな二人でした、ちゃんちゃん!剣崎から告白させたい一心で書かせて頂きました!

リクエストありがとうございました!
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