青い春な文!

□アンテナ
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 電車の中で竜児はウトウトしていた。姉がいるトレーニングジムに行った帰りであり、今は合宿所に戻る途中である。決戦前ということで他の仲間もそれぞれ故郷に帰っているのだ。両手にはビニールに入った野菜が飛び出していた。まるでこれでは夕飯の買い出しだと竜児は思っていたが、すべて姉からのお土産である。ネギやら白菜が丸見えであった。電車の中で合宿所にいる仲間と鍋でもしようかと考えていたがいまではそのことなど当に忘れらていた。ぼんやりと目は夕焼けを僅かながら見ているだけであった。目をつむって揺れに体を任せようとしたその時に電車内ではアナウンスの声が響いた。

「(あ、ここで降りないと)」

竜児は欠伸をして立ち上がった。電車が止まり扉が開くと竜児は出た。それでもまだ頭はぼんやりとしている。駅のど真ん中を歩いている最中もう一度欠伸をしたがふいに止まった。竜児の目線は一点呑みに集中している。すると竜児は走り出した。重い野菜も前に人がいることも忘れて。ぶつかった人にはすみませんと謝ると今度は前を注意して向かった。それでもなかなか前に進むことが出来ない。竜児の目は向こうにいる人物だけを捉えていた。咄嗟に竜児はその人の名を呼んでいた。



「か、河井さっ…!」



すると、竜児が見ていた人物河井がこちらに振り向いたのだ。一瞬奇跡ではないかと考えた、なんたってこれだけの人数と騒音だ。それだというのに自分に気付き河井は笑みを浮かべてくれた。
やっと竜児は河井の所に辿り着くと汗を腕で拭きながら笑った。

「よ、よかった…止まってくれて。河井さんも今帰り?」

「えぇ、新潟からの帰りです。それにしても高嶺くん、そんなに慌てなくてもよかったのでは」

見ればまだ竜児は息を切らしている。そんな彼を見て言ったことだったが、本人は爽やかだ。

「河井さん見つけたら勢いで走っちゃって…、会えて良かった」

と言う竜児の言葉に河井は照れたが逆に嬉しく小さく笑った。

「河井さんの方こそよく気付いてくれたね」

「君の呼ぶ声が聞こえたんですよ」

「本当に?…すごく嬉しいよ」

あんな人ごみの中で気付いてくれたことに竜児は感動した。目が合って、微笑みを返してくれたことがいまでもスローモーションのように蘇るのだ。声を出して正解だったと思う。いまでは河井と会えたことで完璧に目が覚めている。走った呼吸は落ち着いても心拍数は整っていない、むしろ上がっているとさえ竜児は思った。
河井も同じような事を考えていた。河井の耳には確かに竜児の声が聞こえた。振り向けば必死で人ごみを分けてこっちへ向かう竜児を見つけた。あの人数の中まさか見つけてくれたとは驚いたが事実彼は目の前にいる。竜児が自分のために走ってきてくれたことがなにより嬉しかった。

「おかえりなさい、高嶺くん」

「ただいま、河井さん…あははっ」

二人は笑い合った。
さて帰ろうかとしたその時に竜児は手に持っていた野菜のことを思い出した。みんなで一緒に鍋をしようとにこやかに言った。その野菜に注目したが飛び出していたネギが一本見事に折れていて、二人はまた顔を合わせて笑った。






僕の頭にはあなたにだけ反応する
アンテナがついている












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竜+河かもしれない!この子ら二人だとピンクのオーラに包まれてます、そう見えるんだ^^
080606

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