青い春な文!

□共有物
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 独特な、誰もがわかるであろうその匂いに石松は顔をしかめた。石松の背中には湿布が一枚貼ってある。あともう一枚、貼ろうとしているのが志那虎だ。

「湿布くせえー!」

「しょーがねえだろう、背中がいてえんだろ?」

冷えた湿布が完璧に貼られると石松がソファーの上でのたうちまわった。

「つめてえ!」


今朝方である。
ウォーミングアップといいながら石松は得意のバクテンをし出したのだが、不運なことに足をすべらし背中を打ってしまった。念のためといい、医者に見せたが大したことはなかった。しかし、背中を痛めてしまい、今やこの状態である。トレーニングをしても痛みが走るためソファーで何をするわけもなく石松はテレビか雑誌を見るしかなかった。昼になってやっと志那虎がトレーニングから帰ってくるが石松はふて腐れるばかりだ。

「じゃあな石。今日一日大人しとくんだぞ」

「へーへー」

ソファーにごろりと寝転ぶ石松。手にはテレビのリモコンがしっかりと握られている。志那虎は溜め息を吐くと立ち上がり、その場を後にした。


 次にここへ戻って来たのは夕方近くだった。外はうっすらと星がでかかって、気温も低い。部屋に入るとテレビは付いていたが静かなもでよく聞けば寝息が聞こえた。ソファーを覗けば石松が体半分床に落ち、足だけがソファーにひかかっている状態である。その姿が可笑しくて志那虎は小さく笑った。しかし、この体勢じゃあ背中は痛むので起こすことにした。肩を掴みゆらすが一向に起きる気配がない。

「石、起きろ」

「ぐあー…ねるー」

寝ぼけた声に志那虎は頭を抱えた。が、不意に石松の手が伸びると志那虎の首に抱き着いてきたのだ。咄嗟に志那虎は石松が落ちないよう支える。そこへ石松ががぶりと志那虎の首を噛んだ。

「いっ!」

痛くはないが突然のことに志那虎は声を出してしまった。噛まれた所は、はっきりと歯形が付けられている。ゆっくりと石松は歯を離すとその首に顔を埋め込んだ。どうしたと志那虎が聞く前に声がかえってきた。

「トレーニングしてえよぉー…」

寝言なのかわからないが本心であることには違いなかった。一日ふて腐れていた理由である。癖っ毛の頭を志那虎は撫でた。

「なら安静にして早く治して戻ってこい、俺も拗ねちまうだろ」

意外な言葉に石松は志那虎と顔を合わせた。志那虎は照れくさそうにしている。笑うかと思いきや石松は柔らかく微笑んだ。そうしてまた首元に顔をうめると寝息が戻ってきた。数回頭を撫でるとふぅと志那虎は息を吐く。その表情は石松と同じように優しい笑み。ずっと抱き抱えているわけにはいかず、志那虎は石松を抱えたまま寝室へと向かった。



 夕食には日本Jr.の全員が顔を出した。石松は寝過ぎたせいかまだ夢心地である。でも、幾分か機嫌が良くなっていた。今は早く早くと夕食を待ち望む石松の姿がある。皆が席に座るとふいに竜児が志那虎の首に注目した。首には先ほどまでなかった湿布が貼られていることに気が付いたのだ。

「志那虎、首に怪我でもしたの?」

「あ、ああ…」

意識はしないよう心がけていても多少照れくささがあった。まだまだ修行が足りんと志那虎は恥ずかしくなるが自然に手は湿布を貼っているその場所を触る。首を隠すようなその素振りに竜児は気にしなかったが剣崎だけ悟ったかのようにニヤニヤと笑う。

「湿布くさいですね」

と河井が怪訝な顔をした。「しょーがねえだろう!」と石松は怒ったあと志那虎と顔を見合せ笑う。二人の男のせいで湿布の匂いを嗅ぎながらの夕食となった。






困った愛しい共有物









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まさかの志那石。機嫌悪い石と噛むシーンが書きたくって…!

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