青い春な文!

□砂漠散歩
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(※しょっぱな嘔吐する話があります。軽い描写ですが注意) 





 朝から調子が悪かった。しかしあまり気にも止めず普段通り過ごしたが、夜中になると胃がぐるぐると蠢いた。もそりと起きた河井は口元を押さえて立ち上がる。額には汗が光っていた。広くも狭くもない部屋で四人で布団をひいている。その中の一人、河井はそっと三人を起こさないよう歩き出した。合宿所の洗面所へと向かうがいつもは短距離に感じるのに、長距離に思えて目眩がした。

「(気持ち、悪い)」

それでもなんとか洗面所に着くと胃の中の物を戻したが、一向によくならなかった。来た道がやはり遠く感じる。頭はぐるぐると酔った感覚と床が動いているように感じ、河井はとうとうへたり込んでしまった。足の筋が痛み、身体全体が冷えたようにぞっと鳥肌がたった。それだというのに芯は熱い。

「(自己管理…しっかりしないと、)」

幼い頃体調を崩せば、姉が付きっきりで看病してくれたことを思い出した。目を開ければ必ず姉が心配そうに自分のことを見ていてくれたのだ。それだけで幼かった頃の自分は安堵しなにより嬉しかった。
しかし今はその姉も実家の長岡にいる。姉がいないとなにも出来ないのか、と自分自身に対し自嘲気味に笑うと冷たい床に踞まり目を瞑るしかなかった。






 トレーニングをしていた剣崎がちょうどドアの前で何か音がしたのを聞いた。もうトレーニングを終えて就寝しようかと考えていた矢先であった。

「…なんだ?」

ドアを開けて見れば誰もいない、と辺りを見渡した。しかし不意に視線を下げると河井が踞るように寝ていたので少なからず驚いてしまった。おもわず声も出してしまった。

「なんでこんなとこで寝てんだ…」

剣崎は呆れるしかなかった。仕方がないとしゃがみこみ河井に声をかけた。

「起きろ」

そこで河井はうっすらと目を開けたが実は河井にとっては瞬きをしたものだと思っていた。しかし事実は数分だけ寝ていたのだ。河井は何も言わなかった。目だけが剣崎を見つめている。

「寝惚けてんのか?」

と悪戯染みた笑みを浮かべて見たがそこでようやく剣崎は河井の状態がおかしいことに気がついた。額に手を当てると汗の粒が冷えきっていたが、奥は熱をこもらせている。

「…だらしねぇ」

脇腹を支えるように河井を立たせると剣崎は共に歩いた。皆が寝ている部屋に足は向かう。

「体調管理はどうした、自己管理も出来ねぇようじゃボクサー失格だぞ」

いつもの悪態ついた言葉だったが反応が全くない。

「しっかりしろ」

「部屋に…戻りたくない…」

ぼそりと河井がやっと言葉を話したが剣崎はため息を吐いた。

「竜らに気でも使ってんのか?んなこと気にするんじゃねぇ、別に起こしてもいいだろうが」

すると、河井の足が止まり、ぎゅっと剣崎の服を掴んだ。表情は下を向いていて伺えない。剣崎は次第に苛々し始めた。

「おいっ、こんなとこで朝まで立ち往生する気か。かわっ…」

急に支えている河井が全体重を預けてきたので剣崎は転けそうになるが壁に手をついて防いだ。

「てっめぇ」

返事も身動きもしない河井に剣崎は頭を抱えるばかりである。河井の髪をかきあげると額から汗が滲みでていた。何を思ったか剣崎は河井の顔を自分に向かせるとキスをした。唇は熱かった。

「…何して、んですか」

「おめえの顔がやったあとのツラみてぇだ」

「…さっき戻した口です、よ」

「あ?なんだと。げ、気持ち悪ぃ」

何か文句を言ってくると思っていたが河井は何も言わない。調子が狂う、と剣崎は思う。髪をまたかきあげると今度は額にキスを落とした。それから呟くような小さな声で「もう少しだ頑張れ」と似合わない言葉を言ってきたので河井は小さく笑った。気休めかもしれないが、幾分か気分が楽になった。

「おら、行くぞ。あんまり世話焼かせるんじゃねぇ」

ぶっきらぼうにそう言うと剣崎は弱った身体を軽々と引っ張った。河井も手に力を込めて落ちないようにした。その間、決して河井は剣崎から離れることがなかった。こんなに介抱してくれる剣崎を見たのは初めてだったのだ。いまは全力で甘えることにしよう。深夜の廊下を二人はゆっくりと進んで行った。






月明かりを頼りに砂漠を歩く












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嘔吐するところをもっと濃くカキタカッタ。すみません。

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