青い春な文!

□春の人魚
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(※パロ。設定がごちゃごちゃしてます)






外は大嵐だった。
風も雨も強く、姉ちゃんが洗濯物を干さなくて良かったと安堵したことを思い出した。これだとすべて飛ばされてしまう。しかし、そんな中俺は外に出なければならない。姉ちゃんは用事で今はいない。自分で晩御飯を作らなければいけない状態だった。白いビニール傘をさして俺は家を出た。風はまだ弱い方だが近所の地域は暴風警報が出ていたと朝のニュースで聞いた。今のうちに買い物を終えて早々に帰ろうと足を早めた。水が跳ねて靴がどんどん濡れて浸透してしまった。長靴を履けばまだマシだったのかもしれない。

「…ん?」

俺の靴なんかよりもずっと濡れている人物を発見した。コンクリートに座り込んでいる。白い服が発光しているようにも見えた。顔は俯いて見えないが体の細い人物だ。小走りでその人物に駆け寄って傘を差し出し雨に当たらないようにした。なにか体調が悪いなら大変だ。

「もし、大丈夫ですか?」

俯いていた顔はこっちを見た。年齢は二十代後半、髪は肩までかかり頬がやや痩せこけている。肌も白い、不覚にも綺麗な人だなと思えた。向こうの応答を待ったが返ってこない。光がない眼で俺の眼を見るばかりだ。

「あの、」

しかし返ってきたのは白い腕だった。俺の腰に手を回され抱き着かれたのだ。濡れたその人の体がベタつくように密着する。ひんやりとした。もう一度同じ戸惑った声を掛けたが、その人を見るとしゃっくりを上げひどく泣いている。白い顔は鼻が真っ赤で頬も染まるように同じ色だ。俺は自然にその人を抱き締めていた、とてつもなく冷たい体だ、春といってもまだ冬に近い。それを薄着でこんなところでひとりで。
濡れた髪を撫でた、それでも髪は指を通した。

「大丈夫ですよ、安心してください」

俺が笑みを作るとその人は儚く笑ってくれた。






 冷たい体を背負ってみて驚いた。骨までもしかしたら冷えきっているのかと思うぐらい冷たい。俺の家に連れて帰ったがよくよく考えてみればこれでいいのかと少しばかり不安になった。見ず知らずの人なのに病院へ連れていくべきだったんじゃないかと後々後悔した。背負ってその人を下ろして敷き布団に横倒させた。

「こんなところに連れてきてすみません、あの」

その人は俺の手を握った、まだ震えていて冷たい。なにか言っているが聞こえなかった、呼吸している音が逆によく聞こえる。なのに彼は涙を流して、ずっと口はなにかを言っている、聞こえないのがもどかしかった。

「酷いことがあったんですか?」

頷くことはなかったが手を掴む力が強くなった。

「心配しないでください、ここは大丈夫です」

冷たい手を包むように握った。彼の震えは収まった、のと同時に首を抱き締められた。驚いて尻餅をついてしまった。耳元で先ほどと同じなにかを言っているが聞こえない。それでもその人は安心したような笑みを浮かべてくれた。
ストーブがあれば良かったが、この間春が来たので収納棚にしまったばかりだ。ストーブは出せるには出せるが今は救急車を呼ぶことが先決だろう。いったん俺は立ち上がり、その人を座らせた。手は握ったままである。

「救急車を呼びますね」

しかし、その人は首を横に振るった。さてこれは困った。声は聞けないし、身元もわからない。何かわけがありそうだ。でもその人はまるで俺を知っているかのようで大人の人なのに少年のような微笑みを浮かべている。俺はもちろんその人とは初対面だがどこかで会ったような感覚で不思議と警戒心はなかった。

「そうだ、毛布があるんで…」

立ち上がろうにもその人はかたくなに手を離してくれなかった。

「あの…、…」

安心して目を瞑る長い睫毛が綺麗に揃っている。出会った時からすべてが神秘的に思えた。意識に反して手が、手が慣れれないんだ。この手を離せば消えてしまうかのよう。今も時が止まっているかのような感覚。

「あなたは…」

その時、時間が動きだす。戸を叩く強く音が部屋に響いた。風でなったのではなく誰かが叩いた音だ。

「竜童!おーい!竜童!姉ちゃんだ!戸を開けてー!」

姉ちゃんの声。戸は強風に煽られてはいけないと思い鍵を閉めていたのを思い出した。

「姉ちゃんが帰ってきた。戸を開けて来ますか…ら…」

その人の顔を見ればひどく驚いた顔で目を見開いていた。その人は俺の手を離すと泣きながら小さく微笑んだ。そして口をぽつりと動かした。

「……」

「…え?」

聞こえない言葉を言った途端その人は玄関に向かって走った。玄関に立っていた姉ちゃんに目もくれず走り、俺も外に飛び出たした。

「待って…!」

けれど、追い掛けようとしたがその人はもういない。綺麗にあの人は消えてしまった。俺は嵐の奥を見つめた。最後に聞こえなかったはずの声が今になって理解した、というより聞こえてきたんだ。


"さようなら面影がある君よ"


あの人は俺を誰かと間違えている。そしてあの人はきっと会えた喜びで泣いていたんだ。きっとまだ探すであろう、願うはあの人が探し求め続けている人と出会うことを祈った。嵐の隙間には微かに青い空が見え始めていた。







春の人魚

















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(以下解説という言い訳)
竜童と大人河井さんのお話。
2を基盤してますが時間軸とか場所は全くあってません。なのでバラバラです=パロ。
河井さんが日本にいて人格障害になってからの話。心は日本jr時に戻った河井さんは竜児に会いたくてさまよってると竜童と出会う。
簡単に言うと2の原作で志那虎と竜童の出会い方を河井さん版にしてみました。
ずっと書き溜めしてたものです、もっとどんでん返しをしたかったのですがなかなか難しいですね!
100417

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