青い春な文!

□道のり
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(まだ付き合う前のお話)







「はぁ、わかんねぇ…、はぁ」

 何度目か分からない溜め息を石松は吐いた。しょうがなくスプーンで夕食のシチューをぐるぐるとかき混ぜた。
溜め息をする理由は先週にあった。志那虎に告白というものを受けたのである。冗談の類いではない、そもそも志那虎という男がそんな冗談を言えるだろうか。確かに志那虎は石松に「好きだ」と愛の告白というものをしたのだ。石松は戸惑い何も言い返せなかった。冗談だろと笑い飛ばすことも出来ない。本当に何と言えばいいのかわからなかったのだ。「すまねぇ、ずっと言いたかったんだ」と志那虎の去り際が自棄に印象に残っている。優しくそれでいて切ない、笑っているのか泣いているのかわからなかった。石松はただポカンと口を開けたまま見送ることしか出来なかった。そもそも石松はこのかた彼女なんて作ったこともないし、ましてや女の子から(もちろん同性からも)告白されたことなんてない。

「(好き…か……)」

志那虎とは仲間であり、友だと石松は思っていた。これからもそれは変わらないと信じていたが、今壊れてしまったような気がする。

「はぁ…」

あれから数え切れないほどの溜め息が続いている。シチューが入っていた皿をスプーンで叩き音を出していた。それを同じテーブルにいた河井が行儀が悪い、と指摘していたがそれさえも耳に入っていない。真ん前に座る竜児も心配そうに石松を見つめているがもちろん気付いていない。石松に溜め息を吐かせる人物はこの夕食の席にいなかった。そういえばあれから志那虎とは顔を合わすことが以前よりも少なくなったと石松は感じていた。向こうは距離を取っているのかと思うと石松に怒りがこみあげ、拳を握るが悲しくもなった。

「ああもう!おかわりしてくるぜ!」

やけ食いだ、と言わんばかりに石松は急に立ち上がるとキッチンに向かう。あまりにも突然な行動に竜児と河井は唖然とするばかりであった。







 足音を大きくたてながらキッチンにつくとまだシチューは鍋に残っていた。きっと志那虎の分も数に入っているのだろう。すべて食べてやろうか、と石松はにやりと笑うとシチューを注いだ。どろどろしたシチューを入れる間石松は考えた。

「(ああ、なんで前みてえにならねえんだよ!ダンナもなんだよ!俺が好きなら距離取るんじゃねぇ!)」

何度も何度も注ぎ皿にはシチューが溢れんばかりになった。あと一杯入れれば溢れそうな所で手を止める。

「(俺と前みてえに一緒にいてもいいじゃねぇか!冗談言って一緒に笑って、トレーニングも一緒にして、一緒に…)」

ごとり、と鍋の蓋をすると石松は唇を噛み締めた。鼻の奥がツンとなる。目の前も滲んできた。なぜこんなに苦しいのだろう。「志那虎のダンナー!」とはしゃいで呼ぶ自分の姿がひどく懐かしい。

「(ちくしょう、俺は馬鹿だ、ダンナに距離置かしてんのは俺からじゃねぇか)」

手の甲で目をかいたらもっと目の前が霞んできた。するとぼろぼろと涙が止まらない。何回拭いても止まらない。この涙を止めてくれと石松は思う人物に願った。

「ダンナぁ…」

「石…?」

突然よく知った声が後ろから聞こえ、勢いよく振り向けばなんと志那虎が立っていたのだ。

「志那虎…!」

石松の心臓が大きく高鳴った直後、持っていた皿を滑らしてしまった。避けたつもりの手だったがシチューをかぶってしまった。石松はしゃがみこんだ。

「熱っ…!」

「石松…!!」

すぐさま志那虎は石松の手を取ると水道の蛇口を捻り、水を被せた。どうやらシチューが当たったのは指だけだったらしく、手全体はまのがれたようだ。指先は赤くジンジンと痛みはじめてきていた。指よりも石松は志那虎を見つめるばかり。こうやって側にいるのはいつぶりだろうか。たった数日のことが昔のように感じる。
二人はしゃがみ込んだ。志那虎は石松の指先を見てほっと一息を吐いた。

「これぐらいなら水ぶくれにもならねぇだろう、あとはなにか冷たい物でも」

「ばかやろう!」

石松は突然大声を上げた。志那虎は肩を跳ねさせ驚かせた。襟を掴むと石松は泣きながらまた大声を出す。

「どこ行ってたんだよ!」

「石…」

「なんでおれと距離置くんだよ!」

石松の気迫と泣き顔に志那虎は目を伏せた。ばつが悪そうに人差し指で頬をかいた。

「それは…おめぇさんに軽蔑されたと思ったからだ…」

やはり、と石松は驚く。軽蔑なんてしたつもりはなかった。けれどこの数日の気まずさは志那虎にそう思わせていたのだ。石松は唇を力いっぱい噛み締めた。

「そんなことしねえよ!軽蔑なんてするわけねえだろ!」

「石…」

「…この数日でよくわかったことがあるんだ。頭が悪ィから考えるのなんて俺らしくなかったけどよ」

石松は申し訳なさそうに頭をかいてから、じっと志那虎を見つめた。あの時なぜ答えを出せなかったのか。考えさせられて改めてようやく答えが導き出せた。いや、自覚したのだ。もう迷いはない。



「俺の横には志那虎のダンナがいねえとダメみてえだ」



いつもの悪戯染みた笑みを浮かべた。
すると大きく志那虎は石松を抱き締めた。すっぽりと石松の体は志那虎に覆われた。あまりにも力強い腕に石松は驚いたが、そのままにした。居心地が良いのだ。

「すまなかった、石」

耳元でそう言われ体を少し離した。志那虎の表情はあの告白してきた日のような顔だ。もっと喜べばいいのに、と石松は口を尖らしてから晴れ渡った笑顔を向ける。

「なんで謝るんだよ!俺の方だぜ謝んのは。ダンナは俺が好きだってこと胸張ればいいんだ、な?」

志那虎は目尻が熱くなる前にまた石松を抱き締めた。石松は「いてぇよ」と笑うが胸は高鳴るばかり。









次の道のりはご一緒に














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思った以上に長くなりました。初期テーマがぎくしゃくな二人でした。改めて読むと石松が大人っぽくみえる。
100525

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