青い春な文!

□透明色
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 草と川の匂いが土手を漂っていた。草は踏まれた時のような匂いだ。いつもランニングで走るコースだというのに夜になるとすべて変わるものだなと河井は思った。夜道を四人で歩き、前を石松が空っぽのバケツを大きく振り回し、その横では志那虎が新品の花火を袋いっぱいに持っていた。二人の後ろを歩く竜児はコンビニで買ったジュースの袋を持っていて、そして竜児の横にいる河井は手ぶらである。このことに河井は少なからず気にかけている。もちろん進んで何か持ちますと皆に言ったが大丈夫だと断られてしまったので河井は何も言えなくなった。
そんなことは露知らず竜児は横にいる河井ににこにこと笑いかけた。

「花火楽しみだね」

「え、えぇ。そうですね」

どきまぎした答え方だったと河井は自分でも思った。別に荷物持ちをしたいからというわけではない。なんだか皆に申し訳ないのだ。昔の自分なら姉に頼りっぱなしだったが、ここへ来てから頼られるということを知った。今回も自分に頼って欲しいというわがままなのかもしれない。例えるなら荷物が持ちたい子供みたいだ。こんな小さなことに対して過剰に反応してまう自分自身がやはり小さく思えた。

「俺小学生の頃は花火怖くってね、線香花火ばっかりしてて…」

竜児が楽しく話しているが河井の耳には半分しか聞こえずにいた。上の空だ。

「河井さん?」

「あ…高嶺くん。それ持ちましょうか?」

河井の指は竜児が持っているジュースが入った袋に向けられた。

「え?あぁ全然大丈夫だよ」

軽々と竜児は袋を上下に動かす。気にしないで、と優しく言った竜児とは逆に河井は残念そうに眉毛を下げた。

「そうですか…」

と河井は小さく笑う。すると竜児がじっと河井を見てから何かを考えると微笑んだ。

「河井さん、手貸して?」

「え?」

そう言われなんだろうと手を差し出すと竜児が河井の手を握った。暑い日だというのにその手の暖かさは心地が良い。


「俺の手、持っててよ」


竜児の柔らかい笑みに河井は思わず手に力を込めてしまった。その様子に竜児はくすくすと笑っている。見透かされた恥ずかしさのあまり河井は戸惑ったが手を放すわけもなく、また力を込めた。手の中はしっとりとし始めていた。









鮮やかな透明色


















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1年前に書いた文です…掘り出しました。
100607

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