青い春な文!

□フェイス
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(※『恋する少女』の続き3話目。河♀竜前提で河井と剣崎と)












「めでてえ顔してやがる」

 そう言ったのは河井とクラスが一緒の剣崎だった。目の前に座る剣崎は相変わらず仏頂面なのだが、河井はきょとんとする。姉が作ってくれた弁当を食べていたというのに、剣崎のせいで味がわからなくなった。

「何を言い出すのです?」

「この間まで仏頂面ばかりだってぇのに、今はめでてえ面してるってことだ」

「仏頂面はあなたですよ」

お惣菜を箸で掴もうとするが先に剣崎が手で掴み食べられてしまった。むっと河井は眉間に皺をよせる。お構い無しに剣崎は話を続けようとする。剣崎はこういう人物だ、と理解しているから河井は何も言わないが皺は取れなかった。

「なんだ、女でも出来たか?」

唐突な質問に河井は一瞬で眉間の皺が取れた。喉がやけにごくりと鳴ったような気がする。剣崎に言われた通り自分の顔はそんな分かりやすい表情をしていたのかと顔を触るが分かりはしなかった。

「正直な奴だなおめぇ」

その様子を見てくくっと剣崎は笑った。恥ずかしい所を見られたと目線を反らしたが顔の赤さはどうにもできない。

「誰だよ?あ、あの男みてえな女か」

なぜこうまで分かるのか。剣崎は竜児ときっちりとした面識をしてはいないが、下校した時に何度か顔は合わせている。それだけだというのに剣崎は見抜いてしまうのだ。

「失礼な言い方をしないで下さい、彼女は可愛らしい女性…です…よ…。」

最後の方は自らの発言に照れたのか河井は口をつぐんでしまった。耳まで赤くするその姿に剣崎は呆れ果ててしまい溜め息しか出ない。

「(べた惚れじゃねぇか…)」

こっちが恥ずかしいと剣崎は頭をかく。

「しかし、なぜわかったのです?」

真剣に河井が聞いてきた。またひとつまみ、剣崎は河井の弁当から卵焼きを抜き取ったが、今の河井は気にも止めない。食べ終わってから剣崎はにやりと笑う。

「お前のあの女を見る目がやらしいんだよ」

「なっ…」

サアッと河井の中で血の気が引いた。決してそんな目で見た覚えはない。しかし、ずばずばと見抜く剣崎が言うものだからショックは計りしれなかった。自分がそんな目をしていたなんて!

「おい、何固まってんだよ」

ひらひらと剣崎が河井の目の前で手を振るうが反応がない。数分前は赤い顔だったというのに今は青くしている。これはさすがに堪えたかと剣崎はめんどくさくなって、溜め息を吐いた。

「冗談だ、冗談」

そう言われてから河井は目をぱちくりさせると、息を吐いた。一安心したようだがまだ気にしているようで、箸をすすめるがご飯粒をぼろぼろと落としている。くくっと剣崎は笑うと、河井と竜児のことを思い出した。下校時に河井が竜児を見つけた時の顔が鮮明に蘇る。

「(やらしい目というより…)」

「兄さん」

そこへ二人の間に声をかけてきたものがいた。この二人に声をかけることは勇者である。なんたって二人は女子に人気があり、今も教室にいる女子は二人をちらりと目で伺ったり、聞く耳をたてていたりする。別の意味で近寄り難い二人なのだが、あっさりと近寄る人物。

「おせぇよ殉」

剣崎と双子の妹だ。顔は似ていても髪は長く、柔らかい笑みを持っている。

「すまない兄さん、日直で…はい、お弁当」

「ああ」

綺麗な包みを渡す。剣崎は無理やり河井の弁当の前にそれを置いて、青い風呂敷を開けると立派な弁当箱が入っていた。殉の手作りの弁当に感想を言わない剣崎だが殉は横で微笑んでいる。殉は河井と向き合うと小さくお辞儀をした。彼女は本当に優しくしっかりしていて、そして清楚である。それだというのに兄はどうだろうか。双子で兄と妹だというのに性格は似ていない。

「あ、河井くん。最近何か良いことがあったのかい?なんだか雰囲気が変わったように見えるんだが」

殉は河井と顔を合わせると聞いてきた。河井は目を一瞬見開いては肩を竦める。この兄妹は確かに性格は似ていないが、こう勘がいいのは似ているというべきか。それとも自分の顔はそれほど表に出るのか。

「女が出来たんだと」

がつがつとさっそく弁当を食べる剣崎が河井の代わりに言い出した。聞いた殉は自分のことのように顔を明るくさせる。

「それはおめでとうございます!相手は誰だい?あ、あの子ですか?髪が短くて目が大きい子、ほら一年生の」

これまた当てられたので河井はもう驚きしか出ない。じろりと剣崎を見るが彼は弁当を食べるのに夢中だ。殉に河井は視線を向けると小さく困ったような笑みを浮かべた。

「なぜわかったのですか?」

「だって、河井くんのあの子に向ける目が優しいんですよ、なんというか愛しそうというか」

すべて聞き終わる前に河井は勢いよく目を押さえると声にならないような呻き声を上げた。普段の河井なら見れないその姿に殉は首を傾げたが、剣崎は腹を抱え面白がっている。







フェイス












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♀殉は隣のクラス。双子でも苗字は違う、深い設定は考えてませんすみません。剣崎とは男友達ならぬシスコン友達。2年生組の学生雰囲気が書けて嬉しい。
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