青い春な文!

□青の匂い
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(※『恋する少女』の続き3話目。河♀竜前提)











「ダンナー!ここまけてくれよ!頼むって!」

 職員室だというのに石松は大声で頼み込んでいる。普段は静かな職員室なのだが、今は休み時間であり生徒の出入りも多い時間帯である。その中で人一倍うるさいのが石松だ。答案用紙を持って嘆く姿に、横にいた竜児は小さく困ったような笑みを浮かべている。そして、石松が頼み込んでいる担任の志那虎は眉間を指で挟んでいた。志那虎の第一印象は気難しいイメージを感じさせるが、熱心な先生である。年齢が三十路を越えていると思われがちだが、実はまだ二十歳半ば過ぎだ。そのせいなのかあだ名が"ダンナ"である。

「漢字が間違ってるだろう、一本線が多いぞ」

側にあった眼鏡をかけてから志那虎は答案用紙を見た。間違っている解答欄に指をさす。

「こ…これはだなあ!ひっかき傷なようなもんだ!なあ頼むよ!これが合っていれば到達点なんだよ〜!ダンナァ〜!」

両手を合わせて拝むように石松は頼みこみ、横で竜児はやれやれと両手を上げ笑った。

「お願いだよ先生、赤点が三つだと賭けに負けちゃうんだって」

「あ、こら竜児!」

じっと志那虎は石松を睨んだ。当の本人はいつものふざけた顔をしてよそ見している。志那虎は溜め息を吐いてから軽く答案用紙で石松の頭を叩いた。可愛い生徒たちだが溜め息ものである。

「石…お前なぁー」

「いやな、昌たちと約束しちまって。合計点べったな奴がバーガー奢るはめになんだよ。で、昌といま同点!だからよぉ〜頼むよあと一点!あと一点あれば勝ち逃げ出来る!!」

パシッとまた答案用紙で頭を叩いた。そんな賭けをするならもっと勉強してほしいものだ。志那虎はもう一度答案用紙を見るが、どう見ても間違っている漢字に悩むばかり。点をあげたいと思っている時点で生徒に甘いなと自分自身に対して呆れ笑った。

「せんせー」

そこへ石松とは違う声が聞こえてきた。志那虎はふり向く。そこには去年担任していた生徒が立っていた。

「おー剣崎、すまんな」

やって来た剣崎から志那虎はプリントを受け取る。剣崎は聞く耳を持っていないのかすぐにその場から立ち去ろうとしたが、志那虎が持っているもう一枚のプリントに目をやった。あの石松の答案用紙である。

「なんだこの点数、それにきったねぇ字、フッ」

石松の答案用紙を剣崎は小バカにしたのだ。言われた本人黙るわけがない。喧嘩早い石松なら尚更だ。

「うるせえ!バ、バカにしやがって!」

「バカはバカだろ、フッ」

「てっめぇ…!言わせておけば!」

腕捲りをし出し石松に慌て竜児が両腕を掴んだ。

「職員室だよ石松!」

鼻息を荒くする姿に志那虎は頭を抱えた。竜児の言う通りここは職員室で、他の先生や生徒らがなんだなんだと凝視している。剣崎は相変わらず斜めに構えていたが、竜児と目が合った。そういえば、と竜児は剣崎を見るやいやな首を傾げる。よく見かける二年生で、そして河井とよく一緒にいる二年生だと。何か言おうとする竜児だか先に剣崎が口を開けた。

「おめぇ…河井の女だろ」

「えっ!?」

ストレートな言葉に竜児は驚いた。石松も驚き、志那虎に至っては硬直している。あまりにも直球すぎる。

「あのっ…」

じろりと剣崎が竜児の頭から足まで見る。くるくるとうねる短い髪に、年頃なのに化粧をしていない顔。唯一女らしい所はスカート(といっても制服)と、豊富な胸だ。剣崎は頭をかいた。

「おめぇほんと男みてえだな。なんであいつがお前みたいなのに惚れたかわかんねぇよ」

面と向かって言う剣崎に竜児より横にいた石松がカチンと怒りをあらわにした。

「てっめぇ!さっきから…!」

突っ掛かる石松に対して剣崎はフッと笑う。それから竜児に視線を移したが、彼女は笑っている。怒るべきだというのに優しい表情なのだ。

「俺も…なぜ河井さんが男みたいな俺を好きになってくれたのかわからないんです。でも、俺の横にいたいって言ってくれたんです、好きだって言ってくれたんです」

剣崎は正直あっけにとられた。横にいる小さい背の一年のように突っ掛かると思っていたからだ。なのに、竜児は笑っている。嫌みな余裕ではなく、誇れるような自信。様子を見ていた志那虎は優しく微笑んだ。

「フッ面白くねえ」

そう言った剣崎だが、顔は笑っている。すると剣崎は人差し指を立てた。

「良いこと教えてやろう、あいつおめぇのこと可愛いって言ってたぜ。まあベタ惚れってやつだ。フッ、良かったな」

「…えっ!」

さっきまでの竜児はどこにいったのか。口がわなわなと震え出し竜児は顔を真っ赤にする。剣崎は満足気だ。

「あ、の、い、石松!お、俺先に行くね!」

「お、おい!竜…!」

石松が止める前に竜児は早歩きで職員室を飛び出した。飛び出したかと思えば、出入口に戻っては軽くお辞儀をしてまた去ってしまった。呆気に取られていた志那虎だが、デスクに頬杖をする。

「恋愛とやらに俺は口を挟まんが…剣崎おめぇさん面白がってねぇか?」

「フッ、別に」

じゃあなんで楽しそうなんだと志那虎は言いたいがあえてふせた。言った所でどうせ剣崎はまた鼻で笑うに違いない。ふと志那虎は石松に視線を移す。石松は黙っている。あんなに騒がしかったといのにどうしたのかと顔を覗いてみれば石松はふて腐れていた。なんだか寂しそうな小さな背中。

「(生徒の恋愛に口は挟まんが、これは…)」

こっちが照れくさくなって志那虎は軽く頬をかいた。簡単といえば簡単で、複雑といえば複雑な恋愛事情がわかってしまった。職員室の窓から見えるのは夏の青い空だった。








青の匂い

















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ダンナを出したくて…。彼はこの物語の傍観者的な立場です。これで日本jr全員出たので話を進めたい…まだ続きます長い物語ですね、すみません。
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