coyote,colored darkness
□一本の傘
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今日は雨。昨日も一昨日も、その前の日も。ずーっと雨。本格的な梅雨だ。
俺は雨があまり好きじゃない。雨降ってると写真も撮れないじゃん。まあ雨の時じゃないと撮れないのもあるんだけどさ。
「はぁ……」
意識していなくても溜め息が出てしまう。
気分を晴らすためにベースでも弾こうかな。
俺は立掛けてある自分のベースと、その隣にある尚のギターも手にして彼に近付いた。
「尚、軽くなんか合わせようよ。」
「あー?…ま、いっか。」
面倒だと言わんばかりの声を上げたが、ギターを渡してしまえば断らない。ギター、好きだからね。
それから俺のことも…なんて、自惚れ過ぎかな?
でも好きじゃなかったら付き合わないし。二人きりになると、好きとか言ってくれるんだ。本当、極たまーにだけどね。
俺は尚に向き合って座り、好きなバンドのコピーをする。
別に真面目には弾かない。楽しく、心を通わせるように弾くんだ。それが幸せ。
きっと尚も、そう思ってくれてるよね?
何曲か合わせた後、休憩しようと言われた。
時計を見ればいつの間にか12時を回っていた。
「昼ごはんどうする?」
「マック」
即答された。
尚は自他共に認めるファーストフード好き。週に一度は食べてるよな…。よくその体型が維持できるもんだと、少し感心してしまう。
でも外は雨だから、買いに行くのが面倒…と、言おうとしたのに、外を見れば雨はやんでいた。
空は灰色の雲に覆われていたけど、買いに行って帰ってくるまでは降らないだろう。と、予想する。
「じゃあ俺買ってくるよ。何が良い?」
「…なんでも良い。」
本当は一緒に行きたいんだけど、きっと尚は嫌だって言うから。
俺は財布だけを持って、近くにあるマックへ一人で行くことにした。近くって言ってもそんなに近くはないんだけどね。
玄関で“行ってきます”と声を上げて家を出た。
尚の“いってらっしゃい”の声は背中に届いたが、まだ何か言っていた気がする。けど空耳のような気もしたから、気にせずエレベーターに乗り込んだ。