coyote,colored darkness

□一本の傘
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雨だ。ここんとこずっと雨。
梅雨だから仕方ないんだけどさ。別に雨はそこまで嫌いじゃないし。晴れでも雨でも、家の中でパソコンいじってるからな。

でもジロウはあまり雨が好きじゃないらしく…



「はぁ……」



と、今みたいによく溜め息をつく。何て言うか、分かりやすい奴だ。
そんなことを思っているとジロウが近付いてきた。ギターとベースを両手に持って。



「尚、軽くなんか合わせようよ。」

「あー?…ま、いっか。」



面倒だと断ろうとしたが、ギターを渡されては弾きたくなる。
それにたまにはジロウに構ってやらないとな。今断ったら拗ねそうだし。

ジロウ、俺のこと大好きだし?
自惚れ…なんて思わない。好きじゃなかったら付き合ってらんねーだろ。



ジロウが俺の正面に座って向き合う形となった。そして適当に、色んなバンドの曲をコピーする。

ジロウと弾き合わせするのは楽しい。心が通じあってる感じがするって言うか…。
くそっ、恥ずかしくなってきた。

俺は休憩しようと提案する。時計を見たジロウは、昼ごはんをどうするか聞いてきた。



「マック」



即答した。
本当はジロウの手料理が食べたかったんだけど…、んなこと恥ずかしすぎて言えるはずもない。
でも雨降ってるし。ジロウのことだから“買いに行くの面倒だから俺が何か作るよ”とか言ってくれるんじゃないかと、少し期待する。
が、



「じゃあ俺買ってくるよ。何が良い?」



俺の要求が通ってしまった。らしくないと思ってジロウの方を見る。すると奴の後ろの窓の外は、雨がやんでいた。

タイミングが悪いんだよ、バカ空。

とりあえず問掛けに答えようとするが、別に食べたいわけじゃないから“なんでも良い”と言った。
ジロウは頷いて、財布だけを手に玄関へ行ってしまう。

“一緒に行く”

その一言が出てこない…



「行ってきます。」



玄関のドアが開く音と同時に聞こえた。俺は“いってらっしゃい”と声だけで見送ったあと、外を眺めて



「傘持っていけよ。」



と言ったが、ドアが閉まるのと重なったため、聞こえなかったかもしれない。
でもまあ、そんなに遠くはないし。雨が降る前に帰ってくるだろうと思い、一人で待つことにした。
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