coupling
□花火
2ページ/7ページ
『暑い』
そんな表現では生温い
もはや『痛い』というべき、この暑さ。
日差しは肌を焦がすように降り注ぐ。
飼い犬は日陰の小屋から出らず、室内犬を羨む。
猫も暑さのあまり、日陰から動かず、
水の中を悠々と泳ぐ魚を睨む。
暑さに関係なく
社会に縛られ会社に縛られるサラリーマンは
暑苦しいスーツを脱ぐことも出来ず
どうしようもない苛立ちを何処にも吐き出せずに溜め込むばかり。
誰もが茹だるこの暑さ。
それに、例え室内であろうと茹だりきっている男もいる。
「ヒデ……暑い」
クーラーを効かせた部屋で、机に突っ伏した櫻井。
手に在った筈のタバコはいつの間にか灰皿へ。
愛猫もこの暑さに元気を無くし、ソファの上で寝そべるばかり。
主人に戯れる気力も無いらしい。
「だからって、一日中クーラーの効いた部屋でダラダラしてるのもどうかと思うけど?」
そんな櫻井に雑用役として呼び出された星野はそう声を掛けるが、本人動かない。
彼は本当に暑いのが苦手なのだなと心の中で笑った。
現実で笑えば、何をされるか分からないから。
ふと見れば、ダルさのあまりか櫻井は机に突っ伏したまま、眠り込んでしまった。
クーラーの風の音に櫻井の小さな寝息が混じって聞える。