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□ちみ土のお留守番
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10センチほどの大きさに身体が縮んでしまった土方は、銀時の頭の上の次に、定春の背中がお気に入りだ。
今日は朝から珍しく銀時が立ち回っている為、土方は定春の背中に追いやられていた。
どうやら仕事が入ったらしい。
邪魔者扱いされて暫くむくれながら銀時を睨みやっていた土方だが、気づいたら眠っていた。
ふわふわの温かい定春の背中が呼吸に合わせて上下して、心地よい眠気を齎すのだ。
小さな手で、定春の毛をきゅ、と握り締める。
定春の毛並みと銀時の髪の毛の感触は、どこか似ていてとても落ち着く。
うとうとしていると、銀時が何か言って家を出て行く気配がした。
けれどもう、目を開けるのも億劫で土方は返事をすることが出来なかった。





すぴすぴと可愛らしい寝息を立てて、定春の毛に埋まりながら土方は眠る。
時折、伸びをするように手足を伸ばすけれど、すぐに胎児のように丸くなった。
寝顔はとても気持ち良さそうで、口元はうっすらと笑みを浮かべている。
そんな土方を起こさないように、定春もじっとしている。
でもやはり土方を構いたいのか、起きる気配は無いかと背中の様子を窺っていた。
そして土方が熟睡していることを知ると、定春は残念そうにキュウン、と鼻を鳴らしたのだった。



時刻が昼にさしかかった頃、土方は微睡みの中から意識が浮上するのを感じた。
いやだな、起きたくない。
窓から差し込む暖かな陽射しと、ふわふわのベッド。
身体が縮む前は忙しすぎて、こんなに気持ち良いうたた寝は出来なかった。
というか、屯所でうたた寝なんぞしようものならば、嬉々とした総悟に殺されてしまう。
けれど、此処ならそんな心配をする必要も無い。
思う存分、この心地よさに浸っていられるのだ。
だから起きるのが勿体無くて、意識が目覚めても目を閉じたまま、定春の柔らかな毛並みに顔を埋めた。

「くぅん」

しかし土方が起きたことを敏感に察知した定春が、遊ぼうと催促してきた。
顔を上げると、期待に満ちた瞳と目が合った。

「仕方ねェなァ」

自分が寝ている間ずっと動かないでいてくれた定春の背中を、感謝の意を込めて土方は優しく撫でる。

「わふっ」
「分かったって、今降りる」

早く早くと促されて、土方は定春の毛を掴みながら滑り降りた。
定春の背中への登り降りは慣れたものだ。
降りる時は滑り台の要領で滑れば、ふさふさの尻尾が受け止めてくれる。
登りはロッククライミングみたいに、よじ登るのだ。
自分でやれることが少ないので、良い鍛錬になる。
だが、そのよじ登る姿は小動物を彷彿とさせるらしく、背後で銀時がカメラを構えながら身悶えていることを土方は知らない。
登るのに必死だから。
たまに銀時が定春に乗せてくれるが、大抵踏んづけそうで怖いからとかそういう理由なので、あまり嬉しくない。
今日の朝も邪魔者扱いされたことを思い出して、土方は眉根を寄せながら定春の正面に回った。

「よしっ、遊ぶぞ定春!」

実は動物が好きだったりする土方は、ペットのいる万事屋が以前から羨ましかった。
小さくなって嬉しかったことは、堂々と定春と遊べることかもしれない。
いや、もちろん銀時と恋仲になれたことも嬉しいが。
そこまで考えて、土方の顔がぽふっと音を立てて上気した。
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