捧げ物

□恋人はホスト〜基本編〜
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遠くで車の音が聞こえるだけの静かな部屋で、トシはテーブルに突っ伏して眠っていた。
今日は早く帰るという金時を待っていたのだが、睡魔に負けてしまったのだ。

「トシ、こんなとこで寝たら風邪ひくよ」
「ん…」

不意に優しく響く声が頭上から聞こえ、トシは緩やかに目を覚ます。

「おはよ」
「きん…?」
「うん」
「おかえり」

真上から覗き込んでくる金時を見上げて、トシはふにゃんと笑った。

「ーーーーッ!!」

不意打ちでトシのとろけるような笑顔を見てしまった金時は、思わず華奢な身体を力いっぱい抱きしめた。

「……きん、くさい」
「え!?」

甘い雰囲気のまま口吻けようとしたら、トシに顔を押しのけられた。
くさいと言われ、金時は思わず自分の身体をふんふんと犬のように嗅いでみる。

「くさい…?」
「香水の匂いがする」

仕事場でついたのであろう匂いに、トシは不快気に眉を顰める。

「…と、ゴメン。風呂入ってくるね」

気まずそうに金時はトシから離れて、浴室へ足を向ける。
金時の後ろ姿を見やりながら、トシはテーブルに顔を伏せた。
仕事の女性に嫉妬するのは馬鹿らしいとは思うけれど、金時から香水や化粧の匂いがするとどうしてもムカムカしてしまう。
何気ない会話の中でも、金時の口から過去の女性の話題が出ると、不機嫌になる子供っぽい自分がトシは嫌いだ。

「金時は大人だもんな…」

自分より長く生きている分、それなりに女性との関係だってあるだろう。
金時の場合は特にその容姿から、経験豊富なことが窺い知れる。
セックスも

「上手いしな…」

慣れるものなのかと思っていたのにとんでもない。
回を重ねる度に感じたことのない高みまで追い上げられて、トシが快感に限界は無いのかと不安になるほどに感じさせられる。
それほどに金時の愛撫は巧みだった。
どうしてあんなに上手いのだろう。

「教えて貰ったとか…?」

誰に?
昔の女…?

「……ムカつく」

思い当たって、トシは低く呟く。
金時とて最初は未経験だった筈だ。
ならば経験を踏むうちに上手くなったのか、お姉様方に教わったのかいずれかだろう。
金時の場合、後者の確率がこの上なく高い。

「綺麗な人ばっかだったんだろうなァ…」

そしてセックスも上手だったのだろう。

「…………」
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