女体化

□リトルヒーリング〜長いお散歩編〜
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ぽかぽかと暖かい陽射しが降り注ぐ縁側で、ちび土方は定春の真っ白なお腹に顔を埋めてお昼寝していた。
総悟は仕事。お妙と神楽は台所で何かやっており、新八も出掛けている。
一人ぼんやりしていても詰まらなかったちび土方は、遊んでと鼻面を押し付けてきた定春と一緒に昼寝することにしたのだ。
真っ白でふわふわの定春が、ちび土方は大好きだ。
しかし、その幸せなひと時を邪魔したのは、他ならぬ定春であった。
顔の間近で鼻をスピスピ鳴らす音がして、ちび土方は寝ぼけ眼でうっすらと目を開ける。

「うにゅ…さだはる?」

視界いっぱいに定春の大きな顔があって、ちび土方はぱちくりと目を瞬かせた。

「んん、なぁに?まだねむいよ…」

べろん、と目覚めを促すように顔を舐められる。
一舐めで定春の唾液まみれになってしまい、ちび土方は顔を擦った。

「さだはるー?」

ちび土方が起きたのを見て取ったのか、今度はぐいぐいと服の裾を引っ張って、外へ行こうと誘ってきた。
定春につられて外を見やれば、晴れ上がった空に、白い雲が浮かんでいる。
お日様の匂いが満ちた外は、まるで遊ぼうと誘っているようだった。

「…でも、お外はだめってそーご言ってた」
「くぅん…」
「……ちょっとだけなら、いいかな?」
「わんっ」

外への誘惑に勝てず、定春に聞くと、力強い返事が返ってくる。
早く早くと背中を押されて、ちび土方は縁側に置いてあった小さな草履を履いた。
庭で遊べるようにと、総悟が用意してくれたものだ。

「さだはる、いこっ」

ぴょいっと縁側から降りて、ちび土方は定春を呼ぶ。
のっそりと立ち上がった定春を連れて、ちび土方は初めてのお散歩だと、意気揚々と出掛けたのだった。



外に出るのは、これが二度目だった。
一度目は、志村家へ連れて来られた時。
あの時は、周囲を窺う余裕は無かった。
だから、今のちび土方には、見る物全てが珍しい。
お妙のお下がりである、女の子の可愛らしい着物に身を包み、草履をぱたぱたさせながら、ちび土方はきょろきょろ視線を巡らせる。
すると、色んな人と目が合った。
道行くキレイなお姉さんや、おばさん。おじさんや、若い男の人。
おじいちゃんもおばあちゃんも、ちび土方を見ると、目を細めて相好を崩した。

「さだはる、人いっぱいねー」

最初、人と目が合う度に恥ずかしそうに定春の陰に隠れていたちび土方だが、今は慣れて、頬を紅く染めながら、にこーっと笑みを返すようになった。
笑みを向けると、大抵の人は笑い返してくれるので、ちび土方は嬉しくて仕方ない。
何度か、やたら派手な格好をした男が近寄って来たが、定春が威嚇すると、すたこらと逃げて行った。
その度に、ちび土方は不思議そうに首を傾げたのだった。
おねーさんだと怒らないのに、おにーさんだと怒るのは何でだろ?
はてさてふむー?と疑問は尽きないが、賑やかな景色を眺めるうちに忘れてしまった。




ぽてぽてと暖かな陽射しの中を歩く。
軒先に並んだ硝子細工を眺めたり、甘い匂いに惹かれてお団子屋さんを覗いたり。
定春と一緒にお団子を涎垂らさんばかりに見つめていたら、苦笑いした店の娘が、内緒よとお団子を恵んでくれた。
お昼を食べずに外へ出てしまった為、お腹ペコペコだったちび土方は、お礼を言ってお団子を頬張った。
定春は一口でペロリと食べてしまう。

「ごちそうさまでしたー」
「はい、お粗末様でした」

ぺこりと頭を下げると、何故かぎゅっと抱きしめられた。
その上、髪の毛に頬ずりされる。

「あんもう可愛い〜!お肌ぷにぷに髪さらさら。連れて帰りたいわ〜」
「おねーさん、くすぐったいよぉ」

あちこち触られて、ちび土方はきゃらきゃら笑う。
一頻りちび土方を弄り倒して、店の娘は名残惜しそうに離れた。

「じゃあ、気をつけてね。誘拐されちゃダメよ!」
「う?」
「ダメよ?」
「うん」

良く分からなかったが、娘の勢いに押されて、ちび土方はこくりと頷く。
定春と歩き出してからも、娘はぶんぶん腕を振って見送ってくれていた。

「そのワンちゃんと離れちゃダメだからねー!」
「はぁい!」

元気なお返事をして、ちび土方は定春にぴたりと寄り添う。
ふわふわの毛並みを掴むと、ぺろんと顔を舐められた。

「あう。べちょべちょ…」

一瞬にして定春の唾液塗れになった顔を、ちび土方は着物の袖で拭う。
立ち止まってゴシゴシやっていると、いつの間にか定春が遠くなっていた。

「さだはる…っ」

離れちゃダメだと言われたばかりなのに。
慌てて追いかけようとするが、足がもつれた。

「きゃうっ」

ずべしゃっ、と派手に転ぶ。
とっさに着いた手のひらと膝が、じくじくと痛み出した。
その上、お妙に貸して貰った着物まで汚れて、ちび土方の目にじんわりと涙が浮ぶ。

「…っさだは、る!」

それでも歯を食いしばって大好きな犬の名前を呼ぶと、ちび土方が隣りにいないことに気づいた定春が方向転換して走って来る。
そして、ごめんねと言うように、頻りに顔を押し付けてきた。

「さだはるぅ…」

痛みを我慢しながら、ちび土方は定春の首根っこにぎゅうっとしがみつく。
その様子をハラハラと見守っていた大人達は、胸を撫で下ろす。

――ミィ

「?」

喧騒に紛れて、小さな小さな声が聞こえた。
歩いていれば、聞き逃してしまいそうなほど、か弱い。
じっと耳を傾けると、そのか弱い声はすぐ傍の路地から聞こえた。
好奇心に駆られたちび土方は、定春と一緒に路地を覗き込む。

「わぁ…!」

ミィ、ミィ、と今にも消えてしまいそうな声を上げていたのは、一匹の黒猫だった。
身体が小さく、仔猫だと一目で知れる。

「にゃんこだぁ」

空き箱に敷かれた薄い布の上にいた仔猫を、ちび土方は躊躇無く抱き上げた。
痩せて、栄養が足りていないのか、毛並みも良くない。
けれど、温かかった。
心臓は脈を刻み、血液を送り出している。
ちゃんと生きているのだ。
この小さな身体で懸命に。
けれど、このままでは、この仔猫の命は尽きてしまうだろう。
ちび土方にもそれは本能とも言える部分で感じ取れた。

「……さだはる、帰ろ」

仔猫を抱き上げたまま、ちび土方は定春に言う。
定春に、一緒に連れて帰るのかと視線で問われ、ちび土方は頷いた。
この小さな命の灯火が消えてしまうのは嫌だった。

「さだはる、背中のせて?」

ちび土方のお願いに、定春は少し迷って地面に伏せた。



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