女体化

□恋人はホスト〜カグラ来襲編〜
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学校から帰宅して、彼が仕事に行くまでの短い時間は二人にとって、貴重な逢瀬の時だった。
だが今日は、その短い時間さえも無いらしい。
トシが帰宅した時、金時はバタバタと出掛ける準備をしていた。

「金時、もう出るのか?」
「ゴメン!急に呼び出されてさ。もう行かなきゃなんだよ〜」
「そっか…」

せっかく急いで帰って来たのになぁ、と俯いたトシの唇に金時がキスをする。
最後にもう一度ゴメンねと謝って、金時は慌ただしく出て行ってしまった。






軽く掃除をした後、トシはテレビでも見ようかと、テーブルの上にあるリモコンに手を伸ばす。

「ん?」

リモコンの横に見慣れた金時の携帯を見つけて、トシは首を傾げる。

忘れたのだろうか…。

金時の携帯を手に取り、どうしようか悩む。

届けたほうがいいのだろうか…。

仕事で使う時があると、以前聞いた覚えがある。

「………行ってみよう」

一度だけ行ったことのある金時の職場に、トシは携帯を届けることにした。






『何かあったらすぐに連絡して』と金時に渡されていた名刺と、記憶を頼りにトシはかぶき町に足を踏み入れた。
物珍しさも手伝って、きょろきょろしていたら複数の目と視線が合った。

「……?」

普段、他人と目が合うなんてことはあまり無いのにと、疑問に思いつつもトシは歩き始めた。

「…………」

視線が痛い。
歩いているうちに無くなるだろうと思っていた視線は、むしろ増えているように感じる。
何か変な所でもあるのかと、自分の服装を見下ろすが、特に可笑しな所は無い。

そんなに自分はこの街で浮いているのだろうか。
それはそのまま、この夜の街が似合う金時に、お前は相応しくないと言われているようで。

「……ッ」

歪み始めた視界を、トシは瞬きして雫を払う。
唇を噛み締めて顔を上げる。
金時の働く店はすぐそこだ。




シックな建物の看板には、黒地に金で『ノブレス・オブリージュ』と筆記体で綴られている。
その看板の下の重そうな扉を開いて、中に入る。
内装は外観の印象に違わず、黒を基調に纏められている。
一回だけ入ったことのある店。
金時と出逢った場所。
少し懐かしくて、辺りを見回していると、ボーイに声を掛けられた。

「ご指名はお決まりですか?」
「あ、あの金時の…」
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