過去拍手SS

□過去拍手SS集
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〈ありふれた love scene      :朽木白哉〉





そっと静かに微笑む貴方


触れたい唇


気付いてないでしょ?


いつも


何度も


貴方に触れたい…


だから貴方も私に触れて









この暑さが錯覚なのではないかと思う程に、涼しげな佇まいで仕事をこなす貴方。



対照的に副官は存在そのものが暑苦しいけれど、今は不在なので体感温度はちょっと低めかもしれない…



暑さでぼんやりした頭でそんな事を考えていたら、クスリ‥と小さく笑いが洩れた。



「なにが可笑しい…」



そう言う貴方は顔も上げず筆を動かす手も休めはしない。



答えさえも求めてはいないような冷たい呟き…



いいえ、そうじゃない。



乏しい表情、抑揚に欠けた声音に簡単に騙されてはいけない。



朽木家当主にして六番隊隊長である朽木白哉。
完全無欠とも思えるこの人が、実は不器用で愛情深い人だなんて恋人の私の他に知る人はそういるまい。



「隊長、そろそろ休憩にしませんか?」



「ああ」



立場上、常に己を律して生きてきたであろうこの人が、心に感じた事を人前で一々表情に表す事は皆無と云っても良い。



放って置けば眠っている時でさえ休まる事を知らない様な貴方。
私がしてあげられる事は、幾重にも鎧を纏った孤独な心を身体ごと抱き締める。ただそれだけ…



朝から仕込んでおいたとっておきの冷茶をコトリと机上に置き、やっと書類から目を上げた恋人殿の机を挟んで正面に座る。



優雅な仕草でお茶を飲む姿を見つめていると、伏せていた貴方の瞳がゆっくりと私を捉える。



茶器を元の位置に戻した貴方の口元に、フワリと微かな笑みが浮かんだ。



「…お前には敵わぬな、どう繕っても全て見透かされる」



「ふふっ、降参ですか?それなら少しゆっくり休んで下さいね」



「何故お前には私の心情が読み取れるのだろうな?」



「それは…秘密です」



それはきっと、私にとって貴方が唯一無二の存在だから。



不思議そうに私を見つめる貴方はどこかあどけない表情をしていて、あまりの愛おしさに胸が締め付けられそうになる。



机越しに美しく整った恋人の唇にそっと手を伸ばしてみる。
熱を感じさせない唇から柔らかな温もりを指先に感じ、私はホゥ‥と安堵の吐息を洩らす。



―すると私の指は、貴方のひんやりと心地好い指にスルリと捕らえられた。

少し火照った私の指先にそっと唇を寄せた貴方は、不意に目を細めカリリ‥と甘く歯をたてた…



驚いて目を丸くする私を愉快そうに見る貴方の瞳には、悪戯な光が妖しく宿っている。



夏の終わりを惜しむように、力の限り鳴き続ける蝉の聲が遠く響く執務室で。
ほんの一時の戯れにしても、朽木白哉が恋人相手にこんな表情を見せているなどとは…誰も夢にも思わないでしょうね。







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