アズカバンの囚人
□狼vs蝙蝠
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突然だが、俺は自分の部屋で久しぶりに和菓子を作っている。自室専用のキッチンが欲しいとダンブルドアにねだったら、小さいながらも立派なキッチンを増築してくれた。
本当は厨房の一角を借りようと思ってたけど、屋敷しもべたちの好奇心に満ちた視線に居心地が悪くなって逃げてきたところだったりする。
「何故、我が輩が立ち会わねばならんのだ」
「今回はセブルス監修で作ってるから諦めろ」
ちょうどルーピン先生の薬の調合が終わって一息ついていたセブルスに魔法でキッチンを作ってもらった。それで帰りそうになるセブルスを引き留めたら、キッチンの入口に立って俺の様子を観察することにしたみたいだ。
「今作ってる菓子はルーピン先生にあげようと思って…ほら、あの薬ってまずいんだろ?しかも砂糖を入れて誤魔化そうとすると、効果がなくなる」
「そうだ」
「同じ甘味好きとしては心苦しい…っ!だから、砂糖を使わない菓子を作るから食べ合わせとかセブルスが監督してくれ」
「…ルーピンなど苦味に苦しめばいい」
セブルスの呪詛に苦笑しながら、輪切りにしたさつまいもを油がぐつぐつと煮だっている鍋の中にそっと入れた。
「あずきがあれば、もっとバリエーションが増えるのにな…あ、牛乳オッケー?」
「かまわん…何を作っているのだ?」
「ういろうってヤツ!砂糖なしだから、さつまいも本来の甘みだけだけど」
きれいなキツネ色になったさつまいもをすくい上げて、ボールの中に入れた。麺棒で潰して、こして、固めるために冷蔵庫に突っ込んだ。あとは待つばかり。その間にきりねりの方に手を着けるか。
「セブルス、日本から持ってきた真空パック持ってきて」
俺は両手を挙げて、手がさつまいもまみれで荷物を触れないアピールをしたら、セブルスは不本意そうな顔をしながらも、杖をピョイッと動かして真空パックを浮かして持ってきてくれた。
「…あ、一緒に作る?」
「和菓子をか?」
「そうそう!きりねりは粘土細工みたいなものだから、器用なセブルスにもできそうじゃん?」
俺はセブルスを誘いながら両手を洗って、真空パックから材料を出した。俺の隣にセブルスを立たせて、ツカサくんの即席和菓子教室
を開催した。頭の中で三分間の某料理番組のメロディーが流れてくる。
「今日は椿を作ろうか」
「ふむ、菓子で花か…」
興味なさそうな顔してるくせに、その目は真剣に俺の手元を見ていて、可愛いなぁ…と思っ……いや、今のナシ!根暗なオッサン捕まえて可愛いとかナシ!俺の目がおかしいんだ!
「どうしたのだ?手が止まっているぞ」
「…な、なんでもない!」
俺は誤魔化すために椿の花びらを親指で伸ばした。それを見たセブルスも同じように伸ばしたけど、魔法薬で荒れた手では花びらに細かな傷が入って納得のいくものに出来ないみたいだ。
「手、あとでクリーム塗るか?」
「…どうせまた荒れるのだ。気にしまい」
「親指の腹で中心から外に伸ばしてみなよ」
俺のアドバイス通りにすると、花びらの傷は一定方向に流れ、まるで筋のようになった。それによって花びらのリアリティが増していい感じになった。
「セブルスにしか作れない椿になったな」
「…そうか」
口ではそう言うけど、まんざらでもないようだから俺はセブルスに見えないようにして少し笑った。
それにしても、こうしてセブルスと一緒にいるの久々だな…今まで脱狼薬の調合でセブルスの部屋に締め出し喰らってたし。