アズカバンの囚人
□夏休み…伍
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セブルスの家に帰ってから、またいつもの生活が始まった。つまりセブルスは魔法薬学のために引きこもって、俺は主夫になる生活。今日も俺が買い物から帰ると、セブルスは家に引きこもっていた。
…オヤッサンは「おかえり」を必ず言う人だったけど、セブルスは言わない。俺が「ただいま」って言ってもチラッと一瞥するか、良くては「あぁ」って言うくらい。もう俺に「おかえり」って言ってくれる人はいない…
「あ〜シリアスなんて俺じゃない!…あ、夕刊にしては早いね。いつもありがとう」
俺はフクロウから新聞をもらって、家のドアを開けた。リビングではセブルスがソファーに座って、難しそうな本を読んでいた。
「ただいまー」
「…おかえり」
ドサッ
あのセブルスが「おかえり」って言った…俺は思わず持っていた買い物袋を床に落としてしまった。
「カミヤマ家では大切にしているようだったので言ったのだが…間違っていたようですな」
「あ、いや…合ってるけど。突然だったからびっくりした」
「ふんっ」
俺のびっくり度合いに気を悪くしたセブルスは自室に戻ろうと立ち上がった。俺は慌てて弁解するためにセブルスの肩を押して、セブルスをソファーに戻した。
「今まで言ってくれなかったから、びっくりしただけだから!すげぇ嬉しいよ!セブルスに迎えてもらって…家族になったようだった!」
「家族…」
「うん、俺はこの家に居候してる身だからさ。『おかえり』って、受け入れられるって感じがして…」
俺の言葉はセブルスの手によって止められた。セブルスが優しく頬を撫でるから…
「…あ、あぁ、買ったものを冷蔵庫にしまわないと!」
急に恥ずかしくなって、誤魔化すように床でくたっと寝ている買い物袋を掴んだ。それからさっき受け取った新聞をセブルスに押しつけた。
「今日、八百屋さんでキャベツが安くてね」
俺はセブルスに背を向けて、冷蔵庫に買ってきた物をしまい始めた。後ろから新聞を開く乾いた音がした。
「そしたら、おじさんがー…って、どうした?」
いつもは相槌をしてくれるセブルスが黙っているから、俺は振り返った。セブルスは新聞紙をぐしゃぐしゃに握り締めて、怒りに肩を震わせていた。
「セブルス…?」
「……シリウス・ブラックが脱獄をした」