アズカバンの囚人
□列車
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「ツカサ、ここ空いているかい?」
「あ、ルーピン先生!どうぞどうぞ」
今日はホグワーツの新学期!
姿現しでセブルスに置いていかれた俺はホグワーツに生徒を乗せていくお馴染みの列車に乗っていた。ちなみに個室をひとりで占領してたけど、ルーピン先生が俺の正面に座った。
「あれ?セブルスは一緒じゃないのかな?」
「…いつもベッタリ一緒ってわけじゃないですよ?セブルスは新学期の準備で先にホグワーツにいます」
ルーピン先生は疲れた顔で窓にこてりと額をくっつけて、ホームにいる生徒たちをぼんやり眺めていた。
セブルスはルーピンに気をつけろと言ってたけど、特に危険な感じはないんだけどな…
「そんなに見つめられたら、勘違いされちゃうよ?」
「あ、ジロジロ見すぎてました!ごめんなさい」
ルーピン先生は窓の外を見るのをやめて、人の良さそうな顔で俺を見た。
でも、勘違いって何のことだ?とか思いつつも謝ったら笑われた。
「ルーピン先生、ここでちょっとゴソゴソやるけど、気にしないでください」
「ツカサの魔法をやるの?私はまだ見たことないから見学したいな」
「見学するほどのものじゃないですけど…」
俺は全生徒の載っている名簿とペンを持った。それから軽く息を吐いてから、目をつぶって歌った。
《大地の嘆き 踏まれて 蹴られて 気づかれない
お前の悲しみに応えよう
さぁ 見せておくれ
お前を踏む者はどこにおる》
俺が歌い終わると、目を閉じて真っ暗なはずの視界が明るくなって、この列車の内部が映った。個室の中すら自由に見えるから、どこに誰が居るかよく分かる。
「キャサリンいる…ジョージいる」
俺は名簿にチェックを入れながら、目を開けたり閉じたりした。開ければ興味津々のルーピン先生の顔が見れて、閉じれば列車の中が見えるからこの変わりように若干酔いそう。
「おしまい」
全員チェック終わって、歌の力を解くともう目を閉じても暗闇が広がるだけになった。
「それが君の魔法か…すごいね」
「ありがとうございます。でも、まだ修行中だから検証してきますね」
「そうかい?それじゃあ、私は少し眠らせてもらうよ」
「おやすみなさい」
ルーピン先生はよっぽど疲れていたたみたいで、くたびれたローブを掛け布団代わりにすぐに寝てしまった。俺は名簿片手に個室を静かに脱出した。