アズカバンの囚人
□新学期
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去年まで新学期の俺の仕事は新入生を案内することだった。でも今回はルーピン先生の“案内”を任命された。案内という名の監視のようで、あまり好きじゃない。
まぁ、自分の意見と仕事は別だから、俺はルーピン先生の部屋のドアをノックした。
「ルーピン先生、ツカサです。そろそろ晩ご飯に行きましょう」
「…ああ、もうそんな時間かい?」
部屋から出てきたルーピン先生は、いつものボロボロのローブを着ていた。
「先生、初回の挨拶があるから、もう少しツギハギのないローブってないですか?」
「うーん、あいにく私はこれしか持っていなくてね」
ルーピン先生は困ったような柔らかい笑顔でローブの端を摘んで見せた。
「それに、これはツカサが直してくれたからね」
「…ルーピン先生って、実はタラシですよね」
嬉しくて恥ずかしいことをサラッと言ってしまうあたり、タラシだと思う。
「そうかい?」
ルーピン先生の顔をのぞくと、楽しそうな笑顔だった。…絶対、分かっててやってるな。
てか、どうして夏休みに綺麗にしたローブが新学期で既にボロボロなんだ…?そんなにハードな生活をしているのか?
「もう、行きますよ!」
「分かったよ」
俺とルーピン先生は歩き出した。
歩いてて気づいたんだけど、ルーピン先生は俺に歩調を合わせてくれている。セブルスと同じような足の長さだから、本当はもっと歩幅があって早いんだろう。そんな気遣いを何気なくできるところが英国紳士だよな。
「…可愛い監視役さん、どうかしたかい?」
「可愛いのは断固として否定するけど、監視役っていうのはやっぱり気付いていましたか」
「だってここの生徒だった僕が道に迷うはずないし、私の正体があれだからね…」
ルーピン先生が諦めたように微笑むから、俺はなるべく明るい声で言った。
「いいじゃないんですか?人が見ている状況で、ルーピン先生が“いい先生”でいれば、おのずと先生が信用できる人だって証明ができます」
それに、信じてほしいなら努力すればいい。俺もこの力がコントロールできるように頑張ってるから。
「ありがとう…ツカサは私の視点を変えてくれるから不思議だね」
「俺は頭悪いから、深く考えられないだけですよ」
ルーピン先生は傷だらけの手を伸ばして、俺の頬に触れた。それからすごく優しい笑顔で「ありがとう」と言った。
「ところで、ツカサはセブルスには敬語無しで話して、私には敬語だね。私とセブルスは同じ歳なのに、どうしてだい?」
「それは…出会いが出会いだったからセブルスには敬語を使ったことがないだけで、一応社会人として敬語で話しますよ?」
「なんだか私にはそれが距離に感じて寂しいんだ」
「そう言われると…」
どうしよう、困った。普通は敬語の方がいいんだろうけど、ルーピン先生のお願いだしな…
「ツカサと仲良くなりたいんだ」
結局ルーピン先生の最後の一言に負けて、俺は敬語で話すことを諦めた。