*魔人探偵脳噛ネウロ*
□家族
1ページ/7ページ
「…ただいま」
「おかえり!」
「おかえりなさい」
とうとう我が家についてしまったと淳は肩を落とした。弥子がドアを開けると、少し憔悴した母親と家政婦が出迎えた。淳と弥子の後ろに見知らぬ男を見つけると、初めは二人とも警戒していた。しかし、顔だけは好青年のネウロが猫かぶりをしたせいで、二人ともころりとネウロの話を信用してしまった。
「へぇ…そんな才能があったんだ」
「ま、まぁね」
「…でもよかった弥子。お父さんがこんな事になって、あんたが心配だったんだけど、元気そうで…」
フッとした瞬間、母親は我が子を想う優しい顔つきになった。しかし、子どもがそれに気づく前に、いつもの元気溌剌な表情に切り替わった。
「しかも何?その人達が助手?メチャいい男じゃん」
「お母様!先生のサポートはお任せ下さい!先生が超一流の探偵となられる事は助手の僕らとしても、とても喜ばしい事なのですから!」
ネウロは猫被ったまま、母親に好青年の笑顔を向けているが、その手は余計なこと言わせないように淳と弥子の肩を強く掴んでいた。
「そうですよね?ジュン君!」
「そうなんだ。恥ずかしかったから、今まで黙っていたけど…」
母親にウィンクをしたネウロは人ウケの良い笑顔のまま、淳に顔を向けた。肩に置かれた手が段々と力が籠ってきたことに危険を感じた淳は、引き攣った顔でネウロに話を合わせて頷いた。
「そう…じゃあ、ごゆっくりー」
そう言って、奥のリビングに入って行く母親と家政婦をネウロは好青年の笑顔で見送っていた。そして二人の姿がドアの向こうに消えた途端、ネウロが弥子と淳だけに見せる悪魔のような笑顔で言った。
「いい調子だぞ。貴様が上手に名探偵を演じるほど…我が輩は地上で食事がしやすくなる」
「……で、次はやっぱりうちの『謎』を食べるんだ?」
ネウロは弥子の問いに、興奮気味にヨダレをたらしながら答えた。
「楽しみだ!貴様の家にひそむ『謎』は…どんな味がするのか」
「あんたねぇ、人ん家の不幸を…」
弥子の言葉に被さるようにインターホンが鳴った。訪ねてきたのは、さっき喫茶店で一緒になった刑事たちだった。
「やあ、弥子ちゃん!さっきの犯人は無事引き渡したよ」
さりげなくネウロが弥子の後ろに立ったのを、壁によっかかっていた淳は見つけた。淳がネウロに文句を言う前に奥の部屋から母親と家政婦が出てきたことで行動に移せずにいた。
「君の名推理のおかげで事件が早期に解決できた。お礼を言っときたくてね」
「は、はぁ…」
弥子は後ろにネウロがいるから違うとも言えず、曖昧に応えるしか出来なかった。