*魔人探偵脳噛ネウロ*

□食欲
1ページ/11ページ


淳は携帯電話でネウロに呼び出され、人通りのない裏路地に来た。ネウロにアドレスを教えていないはずの携帯電話には、見たことも無いグロデスクな絵文字と一緒に端的な文が書かれていたことに淳は溜め息をついた。



「遅いぞ」

「いきなり呼び出しておいて…」



大学の講義が終わり、街をふらりと散策しようかと思っていた手前、呼び出しに応じただけでも感謝してほしいものだと淳は密かにに眉をひそめた。ネウロが嬉々とした表情で真っ赤なスポーツカーをパズルのように解体していくのを眺めながら、淳は解体済みのタイヤに腰をかけた。



「ジュンはすぐに来たのにヤコはまだ来ないのか…」

「授業は終わっている時間帯だから…きっと、どこかで買い食いしていると思うよ」



ネウロはつまらなさそうに車の屋根に長い足を放り投げ、重力を無視して座った。解体作業が終わり、部品がすべて綺麗に並べられている光景はまさに圧巻だった。こんなところに違法駐車していたのが運の尽きだと淳は車の持ち主に少し同情した。



「俺はたまたま近くにいたから、早く来れただけだよ?それに、まだ3分ぐらいしか経っていないのに…どこまでお腹減ってるんだか」



淳の耳に遠くから走ってくる足音と息切れしてる音が聞こえてきた。きっと弥子が買い食いの商品を持ちながら、慌てて来るのだろうと淳は少し口元をほころばせた。



「空腹とは日常的な病なのだ。時間とともに進行し対処が遅れれば死につながる…にもかかわらず」



淳の予想通り、急いで走ってきた弥子は到着すると、膝に手をついて息を整えた。



「遅い五分も我が輩を待たせたな…ヤコ」

「また買い食いしてたね」

「え、なんで…この車、こんな事になってんの?」



片手にビニール袋を持った弥子は綺麗に分解され、並べられてる部品に驚いた。



「貴様等の足がイモムシのごとく鈍いからだ。待っている間が退屈だったので…丁度ここにパズルがあったのでな、解いてしまった」

「うそォ!?5分で車一台バラバラに!?」

「手ごたえもないし…腹もふくれない」



弥子はやっぱりリアクションの才能があるなぁ…と淳がぼんやり考えていたら、ネウロが車の屋根から軽やかに降りた。



「これでは駄目なのだ。我が輩の脳髄の空腹を満たすのは、人の悪意が作り出す『謎』だけだ!」

「それで、俺たちを呼びつけたってことは…」



淳はタイヤから重たい腰を上げた。正直に言うと、ものすごく行きたくない。けど、弥子が強制的に連れて行かれるし、理不尽な目に遭うことは明らかだから、仕方なくついて行くんだと淳は心の中で誰かに言い訳をした。



「『謎』が生まれる気配がする。行くぞ、距離と方角はわかっている」



目が輝いているネウロの髪がアンテナのように、とある方向を指していた。



「私達に拒否する権利は?」

「特に無い」



ネウロは手を妙な形に変え、弥子の頬に添えることで黙らせた。



「ね、ねぇ…じゃあ、せめてさ。先にこのたこ焼き食べさせてよ。あつあつが一番おいしいんだから」



弥子がビニール袋に入ったたこ焼きパックを見せながらネウロに訴えた。五パックほど入った袋を横目で見た淳はまたそんなに買って…月々のお小遣いの計画性はあるんだろうか?と妹のお財布事情を少し気にした。



「ほう、そんなに美味いのか」



ネウロが弥子が持っていたたこ焼きを奪い、弥子の手が届かない高い位置で持った。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ