*魔人探偵脳噛ネウロ*
□初客
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吾代たちから事務所を奪い取って数日。
淳はゆったりと事務所の中心にあるソファーで、本を読みながらくつろいでいた。ネウロは殺された社長が座っていた机で、パソコンを操作していた。弥子は事務所を掃除していたが、引き攣った顔で大量の片栗粉を淳の目の前のテーブルに置いた。
「ね、ねぇ…ここの台所に『片栗粉』が大量にあったんだけど、何に使うのかな?」
淳も弥子も頭の中では同じ答えが出ているが、目をそらした淳の代わりに、ネウロがパソコンの画面から顔を離さないで事も無気に答えた。
「さあ…よほど『とろみ』をつけたかったのではないか?」
「…うん、確かに『とろん』とはしそうだけど」
「そ、それ…あんまり人に見せない方がいいんじゃない?」
「……そうだね」
それから弥子が一部膨らんでる壁を発見した。
「何だろ…壁紙の裏にヘンなふくらみが」
弥子がそっと壁紙を剥がした。そこには女のシルエットの形に新しく壁が塗られ、後頭部と思われる位置には黒い三つ編みが垂れさがっていた。
「…二人とも…壁が塗り直されてんだけど、人の形に」
「どうやらこの部屋にはもう一人、住人がいたようだな。まぁ…“どのみちしゃべれないのだ”気にはなるまい」
弥子は絶句しながら、静かに壁紙を元に戻した。淳は読んでいた本の世界にのめり込み、弥子の話を聞いていなかった。
「そんな事よりもヤコ、こっちへ来てページをめくるのを手伝え」
「ページ?」
ネウロの毛先が目玉になり、周りにあるパソコンの画面やプリントなどを読んでいる。ネウロはこうして地上の知識を次から次に吸収している。
「目は足りているが、手が足りんのだ」
弥子は机に無造作に置かれた本を取り、毛先の目玉に見せた。淳も初めは頼まれたが、目玉がうようよといる近くにいることで気持ち悪くなり、早々に辞退した。
「そっちの画面のは何なの?変なの映ってるけど」
弥子がネウロが見ていた画面を指した。ネウロは毛先の目玉をしまい、弥子に見せるよう体をずらした。
「客寄せの手段…この事務所のホームページだ。ジュンも見てみろ」
「んー?…はいはい」
淳は本を鞄にしまい、ソファーから立ち上がった。弥子は先にパソコンの画面を覗き込んだ。