*魔人探偵脳噛ネウロ*
□遭遇
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「どうやったら、そういう色気が出るのー?」
講義終了と同時に淳は友達に話しかけられた。淳は講義内容を記したルーズリーフなどをまとめ、バックの中に入れた。
「まずは頭の軽そうな話し方を改善するところから始めたら?」
「淳のいけず!…お前の色気をまねたら、俺もモテるんじゃない?」
「俺、モテないよ?」
「えー?俺、けっこう淳君狙いの子、知ってるし!どうか、その色気をご教授ください!」
「…色気ねぇ」
この色気は普段だと自分の希望を叶えやすくするために使えるものだけど、危うく"そっち系"の男優にされかけた経験からして、あんまり自慢できるものじゃないと淳は少し顔をしかめた。
「真の学びは盗むものなり。…それじゃ、帰るね」
淳の回答に満足いかなくて騒ぐ友達に手を振ってお別れをし、淳は大学を出た。それからいつものように事務所のドアを開けると……いつもとは違う奇妙な光景が淳の視界に入った。弥子が壁に机を置いて、壁から生えてきている黒髪を櫛でとかしていた。
「……なんで、弥子は壁から生えている髪をとかしているの?」
「遅いぞ、ジュン」
「寄り道せずに来たんだから勘弁してよ。で、弥子はどうしたの?」
「あかねちゃんのトリートメントしてるだけだよ?」
…どうやら弥子の頭は手に負えないぐらい重症らしい。やっぱり、ネウロに頭をどつかれ過ぎたのが原因かな?と淳は頭を抱えたくなった。
「我が輩の瘴気にあてられて、中途半端に命が戻ったのだ。今は秘書をやっている」
天国にいる父さんになんて説明しよう…と淳がうなだれていたら、椅子に座ってるネウロが説明してきた。
「じゃあ、髪が動くとでも言うわけ?」
「あぁ」
弥子は髪…もとい“あかねちゃん”を三編みにしながら、淳の方を見てきた。三つ編みにされた毛先が動いているように見えるのは、目の錯覚だと思いたい。
「あんまり驚かないんだね…?」
「魔人もいるような世界だからね、これくらい許容範囲だよ」
淳は疲れたようにソファーに沈むように座った。弥子は髪を梳かしながらネウロの方に顔を向けた。
「ネウロ、さっきの話の続きだけど、具体的に『謎』の気配をまとった人間って…ネウロにはすぐに区別つくの?」
「もちろん、我が輩は感じることができる。ふむ、ではこうしよう」
ネウロは前髪(触角?)を器用に動かしながら言った。
「依頼人が『謎』の気配を持っていたら…、りげなくヤコとジュンに合図を送る。そしたら貴様等は誠心誠意そいつをもてなして話を聞くのだ。合図は……そうだな、このTVを魔界生物(わがはい)が全力で投げつける」
楽しそうに笑うネウロの右手にはメキメキと音を立てているTVがあった。
「ふざけんな!全然さりげなくないし…あんたにそんなのぶつけられたら、死ぬでしょーが!」
「…問題ない。ぶつけられる前に貴様が気付けばいい話だ」
「問題だらけだって。弥子が傷ついたらどうするの?」
「いや、ホントかんべんして。もー…はい、あかねちゃんトリートメント終わり」
あかねはまるで犬のしっぽのように跳ねて喜びを現した。その時、ドアが開き、中年男性が顔を覗かせた。
「あのー…事件の依頼に来たんですが…」
あかねは慌てて壁紙の隙間に隠れた。淳と弥子は何かを察し、ネウロの方に勢い良く振り向いた。ネウロはTVを投げる一歩手前で固まった。
「チッ」
ネウロは舌打ちをし…って、本当に投げる気だったのかと淳は冷や汗をかいた。