土榎r-novel

□Memento mori.
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グチ…、肉の軋む音が身体にも頭にも響く。
異物を受け入れる。と言う事実にも行為にも、以前よりは抵抗を無くしてしまったらしい。
この躯だけは…


手を拘束され、ただ力任せに捩じ伏せられ、
長い無骨な指は身勝手に出入りを繰り返し。躯の胎内を嬲られる。
拡げるよう抉じ開ける指先が、無遠慮に折り曲げられると一堪りも無くて

あぁ、と素直に鳴いてみせる

拘束された瞬間から自分に赦されるのは、受け入れる事と、器に徹する事。
敵わないのは見え透いているのだから、抗うような無意味はしない


充分に慣らしもせず、彼の熱が入ってきても
自分は、その熱さと質量と、酷い痛みを、精一杯、受け止めた。

これは、こんなものは、
情事でも況してや性欲処理なんてモノじゃない。
だから始めから期待はしてないけど、
それでも本能は苦しみから逃れようと、開いた口から彼に届く筈もない悲痛な言葉と唾液を垂れ流す。

すると、気に入らなかったのか自由の訊かない腕が寝台の上に縫い付けられた。
そんな事をせずとも、既に躯は動こうとしてないのに



あぁ、痛い。ただ、苦しい

苦痛が勝り快楽も愉悦も、何も感じない。

だけど今、この痛みや苦しみ以上に増す辛さにもがき喘いでいるのは自分よりも
彼の方だと知っている。


人が死んだ時に限って、彼は行動を起こす。と気付いたのは最近のこと

余りにも、死と言うモノが身近すぎて、
余りにも、無くすと言う感情に馴れてしまい。
憎しみや悲しみや哀れみや、死の恐怖…生と言う人間の本能ですら無くしてしまったようで、
異常なモノを異常と思えなくなっている。

そんな自分が、嫌なのか、恐ろしいのか、惨めなのか知らないけど

まるで必死に縋るよう私を捩じ伏せ、奥深くを貫き


そして、胎で爆ぜる。

身勝手に独り善がりで吐き出された熱。
成す術も無く自分は、ただそれを受け入れ。
容赦無く腹を競り上がってくる迸りを歯をくい縛り堪えた。



次には早々と外へ出て行き。一瞬で質量は消え、痛みだけが余韻を残す。

無気力な躯が強引にひっくり返され反転し、
腕の拘束が外された。


そして漸く、彼の顔を見た

まるで獣のように息を荒々しくさせ、
涙の代わりに汗だくで、
痛々しい程に歪んだ顔を。

ほらね、痛んで苦しんで辛らそうなのは彼のほう


痛み分け、とか立派な事も出来ないし
傷の舐め合い、なんて惨めな事もしたくないけども
端から見ればそんな行為。


こうして、死と言う異様なモノを
快楽と言う異様なカタチで刻み必死に記憶して、
君が少しでも満足するなら構わないと願うから、

自分はいつも


大丈夫、と声を絞り出す。

すると、彼もいつも通り
さっきとまるで違う慈しむような腕で抱いてくれた。
涙が混じる酷く掠れた声で謝りながら





彼が死んだ時いずれ自分も
快楽と言うこの異様な記憶で、ちゃんと彼を思い出してあげられる。


だからね、

ほら

もっと、存分に…




 Memento mori.
 (死を記憶せよ)





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